◇「Rain」本編

5/8

250人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「……なんで雨、好きなんだよ?」  変な奴、と言う、類の表情に、浩人はプッと笑った。 「そんな嫌そうな顔しなくても良くない?」 「……だって雨嫌い」 「そぉ?」  人通りの少ない道路を、ゆっくりゆっくり歩く。 「―――……類は、雨の何が嫌いなの?」  浩人の穏やかな声。  ――――……不思議と、不機嫌な感情が、薄れていく。                         「……濡れるの嫌だし」 「嫌だし?」 「……傘さすのめんどくせーし」 「めんどくせーし?」 「……降った後暑くなるのも寒くなるのも気分悪ぃし」 「……気分悪いし?」  浩人がクスクス笑いながら、類の言葉を繰り返して、先を促す。 「他は?」 「……服は濡れるし靴も汚れるし」  浩人が途端にプッと吹きだした。 「何か、類、子供みたいだな」 「……るせーな。とにかく、嫌いなんだよ」 「――――……ふぅん。そっかー。嫌いかー」  浩人は面白そうに類を見下ろしてきて。  一瞬辺りを見回して。足を止めると。 「……何?  ……!」     少し背をかがめて、浩人は類の唇にキスをした。         「な、にすんだよ、こんなとこで」        真っ赤になった類が声を潜めて、でも小声で怒っている。  クスクス笑いながら、浩人は類を見つめる。      「……傘あると、2人で隠れられていいじゃん?」 「……」 「―――……ちゃんと類、傘1本で迎えに来てくれたしな?」 「っ……お前が」 「ん?オレが?」 「……2本持ってきても捨てるって言ったからだろ」  ぼそぼそと呟く類を浩人は愛おしそうに見つめて、道路側に傘を向けると。  再びキスした。         「何でそんなに可愛いの?」 「……っの、バカ!」  ますます赤くなる類に、浩人はクスクス笑う。       
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加