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映画
二月十四日、私は、彼氏の『ゆうくん』とデートで映画を見に来ていた。
人気のある作品だからと思い、早めな時間にチケットを買って、ゲーセンで時間を潰したあと、再び映画館へと戻って来た。
私たちはのんびりと、私はフレンチポテトとジュース、ゆうくんはポップコーンのキャラメル味とジュースを買って、真ん中位の高さの横真ん中の席でくつろいでいる。
私は彼と付き合い初めて三ヶ月が経とうとしていた。
まだ、手を繋ぐ位でキスもしていない……。
しかし、それには私の方に理由があった。
彼には内緒にしている理由があった。
『私は、余命一年だった……。』
程なくして、映画のCMが終わりを告げた。
ガヤガヤとうるさかった、満員に近い館内に静寂が広がっていった。
* * * * * *
三百年に一度、世界中のウサギの中から月の女神が選ばれる。
しかし、女神は選ばれてすぐに、試練を受けなければならなかった。それは一年間、人間として、人間社会の中で生きると言うものだった。
選ばれたウサギの彼女は、知識を与えられ10歳くらいの可愛らしい人の女の子となった。
ところが、ある男の子にその姿を目撃されてしまう。
しかし、男の子は驚く素振りもなく、生まれたままの姿の彼女にそっと上着をかけた……。
男の子は身寄りのない彼女を自分の家に住まわせてあげられないか家族に頼んだ。
彼の家族は、警察にはいきたくないと言う彼女に対し、理由も聞かず只々笑顔で了承してくれた。
こうして、一つ屋根のしたで彼女は、彼の家に居候することとなった。
そして、彼との楽しい一位年間はあっという間に過ぎていく。
満月の夜。
彼と彼女には思い出の丘があった。
彼女は彼に手紙を残し、夜中に家を抜け出しそこへ来ていた。
そう、お迎えが来るんだ。
その時だった、彼が来て彼女の手を掴んだ。
行くなって。彼は彼女に恋していたのだ。
彼女は一筋の涙を流し「また来るよ」と唱えた……、そう彼女もまた彼に恋していたのだ。
すると月から彼女を包み込むような光が降り立つ。
離さなければ……。男の子がその手を離さなければ、もしかしたら彼女は地上に残れたかもしれない……。
しかし、光に怯えた彼はその拍子に手を放してしまった。
彼女は空に消え、彼は意識を失った。
彼女が消えてから、彼は彼女に事を思い出せなくなってしまったようだ。
思い出の丘に来ては「何か大切なことを忘れている」とつぶやく日々を過ごし、そして大人となった。
ある十五夜の事。
彼は、満月に誘われるように、夜だと言うのに、あの丘へとやって来ていた。
「月が綺麗だ」と呟く彼に、月から一筋の光が降り立ち彼を包んだ。
奇妙な事であるが彼は全く動じていない。
それどころか受け入れているような感じさえした。
そして、彼の目が満月に向け大きく見開いた。
まるで、その瞳に月を呑み込もうとするかのように、彼は月を見上げて一筋の涙を溢した。
そう、彼の記憶が戻ったのだ。
「あの日あの時、手を離したのは僕の方だ……」
月夜を遮るように袖で涙を拭う。
「今さら後悔したって仕方ない」と帰ろうとしたそのときだった。
彼女が目の前に現れたのは……。
「ずっとずっと会いたかった。」
抱き合う二人、ここから二人の同棲生活が始まった。
淡々と流れる幸せな日々、誰が見ても心が温まる幸せな日々……。
しかし、長くは続かなかった。
一年もすると彼女は病に倒れてしまった。
月で育った彼女は、地球の空気が合わなくなっていた。
ある日、彼はこんな提案をした。
「あの丘へ行き薬を貰おうと、もしダメなら君を帰すよ」
彼女は、泣きながら反対した。
あそこに行けばもう帰るしかなくなってしまうと。
そんな彼女を彼は「君が生きていてくれれば幸せだ」と、彼もまた涙を流し優しい笑顔でなだめた。
満月が登った夜。
彼らはあの丘へやって来た 。
彼は彼女の体を気遣い、小さなテントを張って彼女を膝に抱えて座った、大切に温めながら。
そして、彼女は目をつぶり、月に祈った。
彼女を包み込む月の光り。
そんな中、彼女は一度手を叩いた。
パチンと音を響かせ手を叩いた。
すると、全ての時が止まってしまった。
彼女は、立ち上り月に向かって歩きだす。
そして、彼の方へ振り向き優しい涙を溢した。
「これは内緒にしてたことです。私が月に帰れば貴方から私との全ての記憶がなくなってしまいます。」
彼女は涙を止めようと何度も拭うが次々に溢れ出してしまう。
彼女は諦めると服の裾をキュッと握りしめ話を続けた。
「私は貴方を幸せに出来ない。でも愛しているから……、それならば、いっそうの事……貴方の中から消えてしまいたい。私は貴方を縛り付けたくない!」
彼女は、時の止まったままの彼の彼の胸に飛び込んだ、そして、そっと口づけをした、「生きて」っと耳打ちをした。
彼女は、立ち上りそして月へと消えて行った……。
* * * * *
映画を見てから、私はゆうくんに引かれるように、ゆっくりと歩いていた。
本当のところ、まだ涙が止まらない私がトボトボと歩くのに、彼が合わせてくれている。
「映画よかったよねー」とか、「泣いちゃうのもわかるよ」とか、そのたびに頭を撫でてくれるその手が温かい。
ほどなくして、「座ろう」とベンチに誘導された。
「大丈夫?」と優しくしてくれる、ゆうくんの声が体に染み込んでいくよう。
私を精神の奥深くへと沈めていくように……。
映画のように、私はゆうくんの中から消えることなんてできない。
私が死んでしまったら……ゆうくんは幸せになれるのだろうか……。
やっぱり、付き合うべきではなかった……。
私は涙が止まるどころか、どんどんと量を増していくその瞳で「ゆうくん」彼を見つめた。
彼は月明かりに白く照らされ優しく微笑んでいた。
不意に温かな手が私の頭を撫でおろし冷たくひえた私の頬を温めた、そして、もう一度、そして、もう一度……。
その温かな感触は撫でられる度に重なるように、私の心を包み込み癒していく。
「キスしてもいいかな?」という彼の問を、私は目を閉じて自然と受け入れた……。
重なるやわらかな感触は、私の絡まった心を紐解いてくれるみたい。
もっと欲しくなって、重なり合ったままもう一度キスをする。
深く交わるキス、もっと欲しくてもっと重ねていく……。
気が付くば白い吐息が重なる、二人で息切れしながらキスは終わっていた。
いつの間にか止まった涙は……、しかし彼の顔を見たとたん、また思い出し流れ出してしまう。
やっぱり止まらない、さっきよりも胸が苦しくて仕方がない。彼の優しいぬくもりが頭をなでると、もう胸の苦しみは止まらなくなった……。
私は、どうすればいいのか……
「私が突然いなくなってもさがさないで……」
思わず出てしまった言葉だった……、感情から出てしまった言葉だった……。
馬鹿なことを言ってしまった……。
気が付くと私は一目散に走りだしていた。
『もう、彼の記憶から消えてなくなりたい』
気が付くと眩しい光と共に唸るようなトラックが私の眼前に迫っていた。
しかし、その時、側面からの強い衝撃に私の体はそこから抜け出すように宙を舞った。
地面に強く叩きつけられたけど、すぐに起き上がって振り向いた。
ゆうくんがトラックにひかれていた。
私のネックレスの青い石『願い石』が強く光を放っていた。
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