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「ゆ、侑羽ごめん、泣かないで、もうしないから、」 「っ、…」 梨央が慌てたように俺の身なりを元に戻し、恐る恐ると言った感じで俺を抱き寄せた。 いつもの体温。 ふわりと香る爽やかなレモンの香り。 それが好きだと思うのは、番だからなのかな。 それとも梨央だからなのかな。 「…りお、」 すりっと梨央の胸もとに頬を寄せると、安堵したような吐息が上から聞こえた。 「…ごめんね、侑羽。強引だったよね。僕、我慢出来なくなっちゃって、」 体を少し離し、どこか恐々と俺の顔を梨央が覗き込んだ。 「…もうしないから、僕のこと嫌わないで。」 「…」 梨央の言葉に驚いて目を瞬かせる。 「…ごめんね、泣かせて。」 梨央の白い手が壊れ物でも触るように、俺の目元を拭った。 「…俺が、」 「え…?」 「俺が梨央のこと嫌うわけないでしょ。」 ぱちっと少し強めに梨央の毛穴一つ見当たらないその頬を両手で包んだ。 …それに、恥ずかしくて言えないけど。 さっきのだって、嫌だったわけじゃなくて。 ホントに恥ずかしすぎて、どうしようもなくなっちゃっただけなんだ。 自分だって、泣くだなんて思わなかった。 今は、梨央の前であんな風に泣いてしまったこと込みで、恥ずかしい。普通に。 「…ありがと、侑羽。」 驚いたようにその瞳を少し見開かせた後、梨央は俺の手に自分の手を重ねて、少し笑って見せた。 その笑顔が、どこか無理してるような気がして。 自分の言葉がちゃんと届いたのか、不安になった。
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