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「…羽、侑羽。起きて、」 穏やかで優しいテノール声に促され、重たい瞼を持ち上げた。 キラキラと目映い光が目に飛び込んでくる。 「おはよう、侑羽。」 形のいい眉に、すらっとした鼻筋。 色素の薄いその澄んだ瞳の上には、贅沢に長い睫毛が縁取られていて。 はちみつ色の髪は、相変わらずキラキラと輝いていた。 目の前の彼がふわりと微笑むと、見えない羽がばさっと舞い上がったように見える。 …相変わらず眩しい奴だな、、、 この神々しいほどの美形は、何と俺の幼馴染みだったりするわけで。 「…はよ、」 ぼんやりとした頭で挨拶を返すと、おでこに温かな感触と共にチュッと綺麗なリップ音が響いた。 「侑羽、顔洗っておいで。今日はちょっと急がないと学校遅刻しちゃうかも。」 「…わかった、」 「うん、いいこ。」 その言葉と共に、今度は頬にキスを落とされた。 この美形な幼馴染みは、外国の血もひいているらしく、俺と出会う前は海外に住んでいたらしい。 そのせいだか何だか知らんが、やたらスキンシップが多い。 今日は時間がないためか、すぐに解放されたが、大体朝起こされてから五分ぐらいは、頬にキスされ頭にキスされ、抱き締められながら頬擦りされなかなか解放してもらえない。 まぁ俺も、寝起きが悪くてぼーっとしてるからほぼほぼされるがまま何だけど。 顔を洗ってようやく頭がクリアになってきた俺は、のろのろといい匂いのするリビングの方に向かった。 「あ、侑羽。今丁度、侑香里さんが作ってくれたスープ温めなおしたところだよ。冷めないうちに食べな。」 「…ありがと、梨央。」 いつからだったか覚えていないが、共働きで両親が朝早くからいない俺の家に、梨央が合鍵を使って上がり込むようになっていた。 いつの間にかちゃっかり、合鍵を母さんから預かっていたらしい。 そして、やたら過保護なこの幼馴染みは、毎朝のように寝起きの悪い俺のお世話をやいてくれている。 「侑羽、パンはまた蜂蜜つける?」 「うん。」 毎朝毎朝申し訳ないから、一度もう大丈夫だ、と梨央に言ったことがあるのだが、 「遅刻したら大変でしょ?僕が好きでやっているんだから、侑羽は何にも気にしないでいいんだよ。」 とキラキラと輝く笑顔で言われてしまったので、もうそのまま受け入れることにした。 梨央の過保護は昔からで、最早実の親より面倒を見て貰ってるのではないかと思う。 …俺のこと弟みたいに思ってるんだろうな、きっと。 確かに体格から言ってみれば、180センチを優に越している梨央に比べて、俺は170センチにも満たない。 ベータとアルファと言う、性別の差があるから仕方のないことなのかもしれないけど。 …後、3センチぐらいなんだけどなー。170まで、、、 梨央がいつの間にか入れてくれた牛乳をちびちび飲みながら、恨めしげに梨央を見つめる。 するとそれに気づいた梨央が首を傾げた後、わずかに眉をしかませた。 「…?どうしたの?」 「…侑羽からなんか甘い匂いするんだけど、なんかつけた?」 「へ?甘い匂い?」 くんくんと服を持ち上げて、自分の体の匂いを嗅いでみたのだが、自分じゃ何にもわからない。 「うーん、そうだな。これと同じ匂いがする。」 梨央がはちみつを塗りながら、そのトーストを少し持ち上げてみせた。 「そう?全然わかんないんだけど。」 …好物のはちみつを食べすぎたせいで、はちみつ臭を発せられるようになったのかな。 と我ながら馬鹿なことを考えながら、特に気にすることもなく梨央が渡してくれた、その甘いトーストにかじりついた。
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