冷めた場所からの旅立ち

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冷めた場所からの旅立ち

「これで……良しっと」 私は自分が使っていた洋室で荷造りを終わらせて一息つく。 後は引っ越しの業者が来るのを待つだけだ。 私はこの部屋で彼氏と四年同棲していた。きっかけは彼がお互いのことを知るためにも一緒に住もうと提案したことだった。 最初は付き合っていては分からない彼の一面が見られて楽しかったし、金銭感覚もしっかりしているので、このまま結婚しても問題ないかなと思っていた。 しかし、同棲を始めてから約三年、私の知っている人達が結婚していくので、私が何度か結婚の話を持ち出すが、彼は。 「まだするつもりはない」 その一点張りだった。彼が仕事に夢中になっているのは理解していたが、私の父が病に伏せ、余命は長くない。 せめて父を安心させるためにも、私と一緒に父に会って欲しいと頼んだが、彼は拒否した。その後父は容体が悪化し亡くなった。無論葬儀は私一人で行った。 結婚するつもりもなく、私の家族に会うのも拒否する。今まで我慢していた思いを彼にぶつけた。案の定彼の口から出てきたのは。 「不満があるなら出ていけ」 冷たいその一言だった。 今回の件で、彼の嫌な部分を全面に見たので、私は彼の提案をあっさり受け入れた。 彼への愛情も一気に冷めた。 ただし出ていくための準備や手続きをさせて欲しいと、一ヶ月の猶予を貰った。 そして今日がその出ていく日である。彼は出勤でいないので、内心ほっとした。 一端は実家に帰ろうと決めていた。一人になった母を放っておく訳にもいかないからだ。 業者が来て私の荷物が外に運び出される。部屋の中が空になる。 残っている家電や食器は彼に処分を頼んだ。 少し寂しい気持ちになったが、私は部屋を出る前に鍵をして、ドアに付いているポストに鍵を入れる。 これで私と彼の同棲生活は終わりだ。もう二度と戻ることはない。私は前を向いて歩き始めた。 彼との別れは辛くはないというと嘘にはなるが、引きずるのはやめよう。 次は上手くいくと信じて。
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