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かごめ
かごめ
かごのなかのとりは
いつ
いつ
でやる
よあけのばんに
つるとかめがすべった
うしろのしゃうめん
だあれだ
【わらべうた】
怒号も血の匂いも、嗅ぎ慣れた鼻には大した驚きはない。
日常茶飯事さ、と清水は壁によりかかっていた背中を空気中に浮かし、くわえていた煙草を吐き出しながら口を指で拭う。
ふおん、と煙草の匂いが鼻につくと、悲しき愛煙家の性。数秒前の味がまた恋しくなった。
「こんな小火に出てくる事はないだろうに。ゆっくり子守でも楽しんでおけ。年寄りの冷や水は見苦しいぜ」
いつ死に水になるかわかんねえんだからよと、馴染みの男が茶化したが、構わずに喧騒の現場に視線を飛ばす。
大した事はない喧嘩だ。縄張りを狙う野良犬がシマを広げようと電柱に小便を仕掛けた所を自分達の優秀な犬が食い止めた。
些細な事であるが、それを些細にしない事が犬の社会と違う所だ。
小火は金にならないが山火事は金になる。
「…俺がいなくて寂しかった癖に。もっと素直に喜んだらどうだ?」
「はん、黙秘権を主張するね。…お嬢はどうした」
「お前は知らないのか?最近のシンデレラは口うるさいPTAの反感にあってな、よい子になって12時前にはすやすやおねむになられるんだそうだぞ。」
「あらら。王子様、私不純異性行為は出来ないの、ごめんあそばせ…てか。まあこんなに怖いじいやがついてちゃ今時の腑抜けた若造は来んわな。…幾ら可愛いからって、手ぇ出すんじゃねえぞ。お嬢は俺達の大切なおひいさまなんだからよ。」
「俺はロリイタじゃない。どちらかと言えば熟女がいい。昔っから腐りかけた柿のじゅくじゅくした所が好物なんだ」
「けっ、悪食め」
「舌が肥えていると言ってくれ」
無駄口を叩きながら手に馴染んだ柄を握ると、指を操る幾筋の血管が手の甲に浮かんだ。
指の腹が白くなる程握ったそれは清水と同化する。黒い鞘に入ったIT。
柄を握る手を半月を描く様に縦に撫でれば、シュイン・ティン。
黒板を引っ掻くような不快な音がして清水の分身が現れる。
煌びやかな波紋、刃はやや肉厚で刀身は長い。
銘柄はないが良く切れる。
例えて……気取って言うなら骨喰籐四郎吉光。振るう程度で骨を砕く。
その位の気概はあるがそんなものは空想である。あくまで例えだ。
清水の右腕が重い鋼を支えるように身に合うスーツの二の腕が盛り上がる。
濃紺のスーツの右の裾が少し上がるが、振り下ろされた刀剣と共に正常な位置に直された。
小火は喧騒と共に清水達がいる路上の裏の路地で燃えている。
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