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抱いているだけで伝わってくる小さな子供の体温や、自分を抱きしめて離す事は決してない、いいおじちゃんだと信じている子供。
清水は自分が満たされるのをはっきりと感じた。それからも変わらぬ態度で接してくるみどりに清水は依存しているかも知れない。
一緒に遊んでやったり、舌たらずなうた、清水にとっては懐かしいうたを一緒に歌った。
うたを歌うたび、泣きそうになってつっかえつっかえ歌った。
かごめかごめかごのなかのとりは。
傍目から見れば親子そのものだ。
この子の為ならなんだって出来る。
性の対象ではなくこの子は自分にとってさんた・まりあだ。
清水は優しい笑顔を作りながら、先程まで赤く染まっていた手でみどりの髪を梳いてやった。
「…お嬢さん、明日はどこに行きましょうか。あんまり若い女性が好きそうな場所は解らないんですが、良かったら教えてください」
「ほんと?」
言った途端にぱあっ、と顔を明るくさせたみどりが振り向く。
とてもいい顔だ。
ほんとうにいい顔だ。
清水の心が満たされる。
うきうきとしてしまう。
みどりはそんな男の内情なんか知らないようで、きゃっきゃっと声を上げている。
「わたくしね、お洋服が欲しいの。男の人から見てどきっとするようなお洋服。相馬さんとお茶をした時に、君のお洋服はお人形さんみたいだねって言われて、わたくしちょっと恥ずかしかったの。だから女らしい服が欲しいの。ねえおじさまいいでしょう?」
相馬、と言う単語を聞いた途端に清水は幸せな気持ちがパリンと割れてしまった気がしたが、それを気づかせないように清水は頷いた。
じわりと腹の部分に嫌な汗が滲む。
「私は今のままで充分可愛いと思うんですがね」
「いやあよ!可愛いって言わないで!おじさまから頂く服は素敵だけれど。…嫌なの。わたくしはあの方の妻になるんですからそれなりにしなくてはいけないと思うの。…だって相馬さんは女の人が沢山言い寄ってくるんですって。気になるんですもの。なんだかとても焦ってしまうわ」
相馬光太郎。みどりが生まれた瞬間に決まった婚約者であり、清水が所属している組と今の所、手を組んでいる組の若きリーダーである。
年は23と、少しみどりよりは離れているが、顔立ちも良く、お似合いだし、二人はとても仲が良い。
そうだ。まだキスもしていないし、体の関係もない。
まるで沢山の段の上に置かれた楚々とした男雛と女雛のようだ。
…ぎゅっと清水の拳が握りしめられ、何食わぬ顔で喜ぶみどりをもう寝なさいと寝かしつけて険しい顔をしながら部屋を出た。
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