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遅い。
苛々とした声が上がった。
「俺だって暇じゃないんだ。」
「す…みません、し、仕事が入…ったもので」
へっ、どうせ俺に会いたかなくてわざとだろう。
傲慢なまでにふてぶてしい口調は謝る清水を許さない。
広いマンションの一室の真ん中に清水は立たされていた。
ぶるぶると震える足、顔面が真っ青になり汗を掻いた額は何かに耐えている最中を示している。
その様子を革張りのソファーに座って見ている男はとても若かった。
整った顔を醜く歪めて彼は笑う。
「どうした苦しいのか?それともケツマンコの中にでっかいバイブが入ってるのが気持ちよ過ぎて泣きそうなのかよ?…ったく、自分で入れてこいっつったらマジで入れてきやがって。気味が悪い。年寄りは洒落も理解ができないから始末がわりいよなあ。…なあなんか言えよ清水さん」
清水は口を結んだまま話さない。
ただ、ぎゅっと目をつむり、唇を噛み締めながらぶるぶると体を揺らす。
清水の態度に業を煮やしたのか、若者はチッ、と舌打ちしながらソファーから立ち上がった。
「つまんねえオヤジだな。お前があのお嬢ちゃんの貫通式は二十歳になるまで待ってくれって言うからこっちはてめえで仕方なく遊んでやってんだ。別にいいんだぜ?無理矢理あのお嬢ちゃんに俺のぶっとい注射をしてやっても。それとも俺の友達と五人くらいでパーティーするのも面白いよな」
「そ…相馬さん!話が違う!俺があんたのいいなりになったらお嬢さんには優しくすると言ったじゃないですか!」
悲痛な声を出して清水は叫ぶ。
直腸の中に自ら異物を押し込んだ手で相馬の手を握ったが、それは簡単に振り払われた。
容赦ない勢いで腹を殴られ、逆流する胃液を撒き散らして清水はフローリングの床に崩れ落ちる。
「……お前が俺のいいなりになったら……?俺と取引出来る位自分の体に価値があるとでも思ってんのか?俺とお前は対等じゃねえ。あーあ、俺の部屋に反吐吐きやがって。…きたねえんだよ。惨めなんだよお前。自分のガキ位の女の為に、ケツおっぴろげて恥ずかしいと思わないのか?所詮他人じゃねえか。もうあんなスケどうにでもしてくれって言っちまったら楽になるんだぜ?それとも、そこまであのガキにいかれちまってんのかい?」
「う…っうう」
嘲る声が突き刺さる。
排便をする箇所に挿入した異物がたまらなく痛い。
便所の個室で、両手で柄をもち、唸り声を上げながら自分で装備したそれが、たまらなく痛い。
…自分はなんて無様なんだろう。
諦めてしまえばいいのに。
諦めきれなくて、ますます無様になっていく。
泣く。
男泣きをしながらそれでも清水はしつこく相馬のズボンに手をかけた。
「すみません…すみませんでした。頼みます、相馬さん!お嬢さんには優しくしてやって下さい。俺で我慢してください、なんでもします、なんでもしますから……!」
みじめな格好だが、清水はどうでも良かった。
あの美しい子供さえ良ければなんだって良かった。
誰になんと言われようが
清水は、この世で一番、あの少女が大切なのだ。
みどりの両親が死んだ葬式の夜、それまで優しくて礼儀正しいと思っていた相馬が清水の前で豹変した事がそもそもの始まりだ。
「なあなあ清水さん、あのお嬢ちゃんとヤっちゃってんだろ?」
目を剥く清水に、下品な笑いを浮かべた相馬はこんな事を言ったのだ。
「俺さ、女が喚いて泣く姿がすげー好きなの。もちろんみどりちゃんのそういう姿を想像なんかしてるとすごく燃えるんだよね。清純そうな子がチンポくわえてよがり狂うの。俺の奥さんだしね、そういう事はきっちり若い時から躾なきゃあ。…止めてくれ?は、あんたが楯突くって気ならこっちは婚約なんか解消してやるさ。俺にはなんにも困らない。俺の組の看板に寄り添う寄生虫みてえなお前らには勝てるって解りきっているからさ。なんでもするから?へえ!あんたが!あはは、なら」
あんたが俺のをくわえて俺が満足したら、お嬢ちゃんには優しい夫を演じてやろうかな。
酷い男だ。
酷い話だ。
だが清水は従った。
みどりは清水をいいおじさまと信じているように相馬を未来の夫と信じている。
役は最後まで。舞台はいつか終わるが、幕が閉じた後にあの子が泣くのなら。
舞台を終わらせるもんか、終わらせてたまるか。
みじめに床でのたうち回りながら清水はそれだけが願いだったから、泣きながら懇願をし、笑う膝をべたりと床について土下座をした。
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