わらべうた

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わたくしの体には興味がないおじさまが悪いのよ。 わたくしが裸になっても、透けた下着を着て横で眠っても、あなたは、なにも感じないの。 悲しくて、憎んだわ。本当は愛しいのに。 わたくしはおじさまを抱けないからどうしようもないし、おじさまはわたくしを抱くことはないでしょう? 男の人って、欲情を発散しないと、体に悪いのよね? つらいと思うわ。 だったら、男の人に抱いてもらえばいい。 わたくし以外の女に触られるよりマシよ。 ううん。逆にドキドキしてしまうわ。 今、胸を触ってみれば、わたくしがどんなにか興奮しているか解るのに。残念ねおじさま。 相馬さんもそのお話をしたら快く賛成してくだすった。 「一人の人をそんなに愛する事が出来るなんて。あなたはとっても素晴らしい女性だ」ですって。 相馬さんはね、昔からわたくしの理解者なの。 わたくしのおじさまへの愛に気づいて、わたくしからおじさまを取り上げようとした罪深い薄汚くて卑しい豚夫婦をゴミ箱ごと燃やしてくれたのもあの方よ。 相馬さんとならわたくし、お似合いのいい夫婦になれそう。 うふふ。 おじさまわたくしね。 もう子供じゃないの。立派な女なのよ。 生理だってきちんとくるし、胸も膨らんでいる。 赤ちゃんを産める血のベッドもお腹に出来た。 小さな赤ん坊はおじさまの愛情に守られてすくすくと育ち大きく大きく育ったの。 おじさまを糧にして、私は大きくなりました。 もう、子供ではいられないの。 いつまでも変わらないのはおじさま、あなたじゃないかしら。 おじさま、わたくしの手の中でいつまでもいつまでも綺麗な声で歌っていてね。 わたくしはもう歌わない。 子供じゃないの。 ちんけな歌は必要ない。 子供だましの歌なんか、溝に捨てられて死んでしまえばいい。 わたくしの歌は わたくしの檻で おじさまが鳴く声で それだけで、いいの。 だから、ね? その為ならわたくし、おじさまの前でうんと可愛く振る舞ってみせるわ。 可愛い可愛い子供の役をずうっとずうっと演じきってみせる。 大嫌いな、趣味の悪い、可愛いお洋服も頑張って着こなすわ。 だってほんとうに好きなんだもの。 おじさまを愛しているんだもの。 みどりの美しい顔に、凄みのある美しさが宿る。 玄関から物音がした。 男に嬲られた男が帰ってくる。 きっと、自分の部屋を覗くのだ。 そして、安堵した顔をする。 寝たふりをしているみどりを見て、癒されている。 自分の苦悩が、美しい子供によって生み出された罠だと気づかずに。 うたをうたうよ、かわいい童子 こわーいうたをかわいくうたう ひっそりくすくす。よふけにわらう わらべうたをうたうのはだあれ わらべうたはわらべがうたう このうたをうたうのは、だあれ? 【わらべうた】完
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