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「ねえ、あなた、覚えてる?」
やけに色っぽい声で、そいつは訊いた。「覚えているでしょ? 先週の金曜の夜、あなた、辻本杏奈の住むアパートへ行ったわよね?」
決めつけるような言いかたに、うんざりして、加賀京介は答えた。
「違うよ。何度も言わせるなよ。その晩、おれは、石田亮太というやつの部屋で、ずっと飲んでいたんだ」
「本当に?」
「本当だ」
京介がにらみつけると、そいつはしばらく沈黙した。
暗闇のなかに、金色に光る目しか見えない。
猫の目だ。
そう、猫がしゃべっているのだった。
それもメスの猫。
ここは、十年来使われていない廃工場だ。
時刻は夜の十時ごろ。
京介は、プロレスラーみたいなデカい男に、無理やりここに連れてこられた。いまは、手足を縛られ、壁を背にして、床に腰をおろしている。
京介の前方には、加工用の機械が設置され、猫はその上に乗っているらしい。
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