薔薇(はな)ざかり

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薔薇(はな)ざかり

 薔薇(はな)の盛りは短すぎる  けだるい初夏の一日は  今日もこの部屋で過ぎていく  レースのカーテン越しに  まぶしすぎる陽のひかり  誰も彼も  お父様の薔薇園のことばかり話す  そこは美しい庭園  あふれるほどの薔薇が咲き誇り  幻のような風景を見せる  誰もが褒めたたえる  世界一の薔薇園と  でも私は  一度も足を踏み入れたことはない  お父様の薔薇園が  どんなにすばらしいと聞いても  私にとっては知らない場所  ここではない どこか  ただそれだけ  もう何度聞いただろう  今日も貴方は言う  薔薇園から一輪もらってきた  綺麗だろう  いつか元気になったら一緒に行こう  誰も彼も同じことばかり言うのに  貴方まで言うのね  そんなことを  部屋に飾る薔薇はいらない  薔薇園の話も聞きたくない  薔薇(はな)の盛りは短すぎる  いつか元気になったらと  言われ続けて もう何年も  初夏の風は 微毒を帯びている  私は部屋を出られない  薔薇の話はもういいから  今ここにいる私の話だけ  聞いて ほしい  貴方は 私を見てくれていますか  レースのカーテンに重ねる  夜空色の厚いカーテン  薔薇の命は  あと何日かわからないけれど  盛りの時が 早く終わるように  祈ります
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