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明日から夏休み。
終業式の今日は、私たちの五年二組も、朝からうきうきした気分に満ちていた。
たくさんの宿題をこれから持って帰らなければいけないのは憂鬱だけれど、それ以上に夏休みのいろんな楽しい計画がみんなの胸を躍らせていた。
体育館での終業式が終わり、教室で先生から通信簿を受け取る。お昼にはすべての日程が終わり、いよいよ夏休みに足を踏み入れる私たちは、賑やかに帰り支度をしていた。
そんなときだ。ランドセルに荷物を詰めていた私の横に、クラスの男の子がやってきた。
「成瀬さん、ちょっといいかな」
大人びた口調でそう言ってきたのは、湊くんだった。
吉田湊くん。うちのクラスには吉田くんがもう一人いるから、みんな下の名前で呼んで区別している。確か二年ほど前に転校してきた子で、同じクラスになったのは今年が初めてだ。
「あっ、うん。なに?」
私はちょっとだけどぎまぎしながら答えた。湊くんとは喋ったことはあるけれど、とくべつ仲がいいってわけじゃない。
丁寧な言葉づかいでゆっくりと喋る子で、成績がけっこうよくて、物静かでおとなしいけれど、学級会では手を上げて堂々と発言したりする。私から見た湊くんはそんな印象だった。
あのね、と湊くんはいつもの調子で話し始めた。
「成瀬さんのお兄さんって、ペットショップで働いてるって本当?」
「あ、うん。ほんとだよ」
「駅の近くの、ホームセンターの隣にある、大きいとこ?」
「うん。小動物とかのコーナーにいるよ。それがどうしたの?」
すると湊くんは、いったん口を噤み、顎に手を当てた。考え深そうな瞳は黒く澄んでいて、私はふと、水族館で見たイルカを思い出す。
数秒間黙りこんだあと、湊くんはあらたまって口を開いた。
「成瀬さん。実は、お願いしたいことがあるんだ」
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