#1 ガール・ミーツ・ハリボーイ

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 夜になってから帰ってきた宗くんに、私は部屋でその不思議な体験について話した。  もしかしてカイトくん、人間に変身できるのかも。冗談半分でそんなふうに言うと、宗くんは眉間にしわを寄せる。しょっちゅう寄せているけれど、いつにもまして深い。そして低く言った。 「お前、それからずっとひとりで家にいたのか? どこにいた」 「え? 自分の部屋と、あと、リビングだよ」 「ほかにおかしなことなかったか。音がしたとか」 「うーん……ううん、なにもなかったよ」  宗くんはすごく苦いものを食べてるみたいな顔をして、私の手をとりリビングに入った。  私をソファに座らせると、キッチンへ行ってフライパンと片手鍋を持ってきて、私の両手にそれぞれ握らせる。頭にハテナを浮かべる私の前に、宗くんはしゃがみこんだ。下から私の顔を見つめる。 「いいか、円佳。この世には質量保存の法則ってもんがあってな」 「しつりょうほぞんのほうそく」 「物質ってのは、形や状態が変わってもトータルの質量は変わらないんだ。質量って、まあ、大きさってことだな。アイスが凍ったまま食っても、溶けちまって液体になったのを飲んでも、腹に入る量は変わらない。わかるか?」 「うん、わかる」 「だからな、ハリネズミが人間サイズに変身するってことは、ファンタジーの世界でしかあり得ない。体重六十キロの俺が万が一、六十キロのヒョウに変身できたとしても、三十トンのザトウクジラになるのは無理だ。それと同じ」  私は宗くんの言う通りにイメージする。宗くんは私よりずっと背が高い。ヒョウの本物は見たことがないけれど、身体を伸ばしたら宗くんと同じくらいなのかもしれない。そして、カイトくんはとても小さい。宗くんなら片手で持てるサイズだ。 「でも……ほんとにいたの、男の人が……」 「お前が嘘ついてるなんて思ってない。ちょっと待ってろ」  宗くんは立ち上がって私の頭を一撫ですると、今度は一人でリビングを出、すぐに戻ってきた。  なぜか金属バットを手にして。 「家ん中に不審者がいる可能性がある。お前、そこから動くなよ」  もし何かあったらそれで大きい音出せ――と、私の持ったフライパンとお鍋を指さして、宗くんはリビングのドアを静かに閉めた。
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