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二択。
「ねえ、私のこと覚えてる?」
私が尋ねると、彼女は私の顔をしばらくまじまじと見つめたあと――んー?と首を捻った。
「……ごっめん、覚えてない。えっと、どちらさんだっけ」
「佐藤七菜子」
「……うーん記憶にない。佐藤って名前の友達たくさんいるもんなあ。ごめんね!」
「…………そう」
彼女は困ったような顔で謝って来た。沖津第三小学校五年二組の同窓会。飲み会の席に集まった、今はもう立派な大学生になったであろう元クラスメートたち。その喧騒が遠くなり、景色が色あせていくのを感じる私。
私のことを、覚えていないクラスメートがいるのは仕方ない。自分で言うのもなんだが、地味で目立たない生徒だったのは確かだ。いつも一人で教室の隅で読書をしているような人間。いじめられたこともないけれど、かといっていてもいなくても変わらない、空気に近い存在だったのは確かである。名簿を見て初めて“こんな子いたっけ?”と言及されるタイプだろう。
でも。
彼女にだけは。渡瀬佳保里にだけは、忘れていてほしくはなかった。当時クラスで一番の人気者で――その地位を、私の親友から奪い取って追い詰めた彼女にだけは。
『ななちゃん!おすすめの本教えてよー!』
親友の根本美玖。美人で、明るくて、成績優秀運動神経抜群。何でもできる、私の自慢の友達だった。私のように根暗な人間にも声をかけてくれるほど、気遣いのできる優しい少女。
渡瀬佳保里が転入さえしてこなければ。彼女はきっといつまでもクラスにいて、みんなの中心で笑っていたはずなのに。
大人っぽくて、中学生以上の年齢に見られることもあった美玖を妬んで、佳保里はあらぬ噂を流した。美玖が、小学生のくせに援助交際をしていた、おじさんと歩いている現場を見た――などと。そんな馬鹿なことあるはずがない。それでも、噂はどんどん広がって、彼女はどんどんみんなから“気持ち悪い”“変態”“金の亡者”などとのけものにされるようになっていったのである。
人気者から一転、いじめられるようになった美玖。そのいじめを主導したのが、他でもない佳保里だった。美玖と同じくらい美人で、美玖ほどではないが世渡り上手だった佳保里。彼女にとって、美玖は邪魔者だったのだろう。
最終的に美玖は不登校になり、学校に来なくなったまま転校していった。私は泣きながら佳保里に詰め寄ったのだ。
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