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「ねぇ、覚えてる?」
レザー調ソファに座り、黙々と画面上のキャラクターを動かす俺の隣で、
彼女はその言葉を発した。
「違和感ならね」
頬を膨らませた彼女のげんこつは、俺の肩を思ったより強く刺激した。
「そういうこと聞いてなーい」
「本当に覚えてないの? 今日で付き合ってからちょうど4年が経つの」
呆れの混じった質問に、俺は答えられなかった。
記念日を忘れていたのではない。頭の中がそれどころではなかったのだ。
俺は肩を摩りながら、胸のどこかに引っ掛かっていた疑問を、
思い切って彼女にぶつけてみた。
「アズサ……じゃないだろ?」
なぜか否定も疑問も即座に返ってこない。
流れゆく沈黙の間に耐えられず、俺は彼女の方に目をやった。
彼女は俯きつつ、ニヤリと笑っていた。
そんな表情を見るのは、今この瞬間が初めてだ。
正確には、俺の思う彼女ではないのかもしれないが。
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