22人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
時計の針が午後九時を指したころ、娘は私に尋ねてきた。
「ねえ、おとん、今夜は飲むの?」
娘は早々に宿題を終わらせ、風呂に入り髪を乾かし、すっかり寝る準備を整えている。普段よりも早めに仕上がっているということは、あの誘いがあるのではと私は察していた。
「んー、ワイン飲んでから寝る」
「それじゃ、『ごくごくぷはー会』するぅー」
やはり、思った通りだ。
娘は昔から父である私の真似事をするのが好きで、そんなときは「食べるぅー」「飲むぅー」「オセロやるぅー」「モフモフするぅー」と、必ず語尾が伸びる。
娘が親非公認で名付けた「ごくごくぷはー会」。それは、私と娘のふたりで交わす晩酌のこと。
とはいっても、娘は中学生だからして飲み物はジュース限定である。
妻は私の晩酌の相手をすることはない。ぼっち飲みの非運は結婚前から覚悟していたが、まさか娘が一緒に飲んでくれるようになるとは思わなかった。すまし顔で「いいよ、飲もうか」と返した私だが内心は大歓迎だ。
だからおつまみは、あたりめとマヨネーズ七味トウガラシをセットで用意した。
マヨネーズ七味トウガラシをあたりめで掬って口に運ぶと、あたりめの塩っ気がマイルドになり味の奥行きが増すのだよ――と娘は力説する。つまりこのおつまみは娘からのリクエストなのである。
イカ様の旨さがわかるとはなかなかのつわものよのう、このおっさん娘は。
へっへっへ、おとっつあんほどじゃありませんで。
※今の返事はあくまで妄想です。
最初のコメントを投稿しよう!