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振られた過去
「あのー覚えてる?」
25年ぶりの同窓会――僕は、45歳。職業・ニュース・キャスター。
既にそこは、興奮の坩堝と化していた――最早、息苦しいだけだ。
いそいそと席を外し、休憩所のソファーに腰を降ろし、グラスを傾けていた。
時の頃、15時。昼から飲む酒は案外効いた。ぼーっとしていた。
そんな時、突如、声を掛けられた。
「旧姓・金子です」
「えー、金子?・・金子?・・」
思い出せない・・・誰だ?この女(ひと)?
「ごめん、覚えてないなぁ・・」
「うそォー、まぁ、無理もないか・・今を時めく人気キャスターの苦い過去!だもんねぇー」
金子はニタニタと薄気味悪く笑った。
「何かあったっけっ??・・」
無論、そんな気はなかったが、僕のその口調が、金子にはひどく、ぞんざいに聞こえたらしい。金子の顔に火が付いた。
「覚えてない筈がないっ!昔、あなたに告白されたんだよ!”好きです、付き合ってくだいっ”て!!」
「あぁ、あの金子さん・・」
微かに、そんな事もあったかな・・程度には、思い出せた。
しかしながら、時の残酷を感じた。思い出せないのも無理はない。あの時の金子と目の前にいる金子があまりにも違っていたからだ――面影すら見い出せなかった。
「そー、そー、あの金子!!」
僕のテンションの低さを余所に、目の前の金子は、自信を取り戻したらしく、途端に優越感を露わにした。
「てか、あの告白!今でも、私の鉄板っ!!」
両手を合わせて、声色を上げた。
「鉄板?・・はぁ・・と言うと?・・」
「決まってるじゃない!今をときめく人気キャスターを”その昔振ったー伝説の女”・・って、なかなかウケいいのよ、色んなところで・・」
「で、伝説・・ね・・そっ、そうなんだ・・」
早く解放されたい気持ちが込み上げてきた。
「ごめん、やっぱり、ホントは、告白した事も、振られた事もあまり覚えてない・・まぁ、別に、ネタにしてもらっても構わないけどさぁ・・昔の話だし」
極めて素っ気なく言葉を投げた。その瞬間、金子の顔がキッとなり、
「ふん!何っ、その上から目線!振られたくせに、私に!!」
金子はヒステリックに叫び、反転、貫禄十分の身体をゆっさ、ゆっさと揺らし去っていった。金子は戻って何を言い出すのだろうか・・・
「ま、いっか・・ホント、若気の至りだな・・・」
ホールからは、怒号のような笑い声がする、先はまだ長い。25年振りの同窓会って、こんなもんか・・僕は、グラスを傾け、ため息を吐いた。
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