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【 プロローグ: 小さい頃の思い出 】
7月の晴れ渡った空を見上げ、この七色の虹を見ていたら、あの頃のことを思い出した。
「ねぇ、お兄ちゃん。覚えてる? 昔、小さい頃、ふたりで虹を渡ろうって、どこまでも走って行ったこと……」
お兄ちゃんは、私のすぐ隣で同じように、空に架かったこの大きな虹を眺めている。
「ああ、そんなことあったな……」
ジーンズの前ポケットに半分手を入れながら、お兄ちゃんはそう言った。
夏の爽やかな風が、私とお兄ちゃんの髪を靡かせながら、いたずらにふたりの間を通り過ぎてゆく。
夏休みが終わったら、またお兄ちゃんとしばらく会えなくなる……。
「虹、渡ってみるか……」
そんなお兄ちゃんの虹を見ている横顔をチラッと見た。
「うん……」
小さく私が頷くと、お兄ちゃんは恥ずかしそうにしている私の左手を掴み、急に自転車置き場まで引っ張って走って行く。
そして、私を自転車の後ろに乗せると、「行くぞ」と言って、ペダルを漕ぎ出した。
きっと、お兄ちゃんと一緒なら、この綺麗な虹もふたりで渡って行ける……。
抱きついたお兄ちゃんの鼓動を背中から感じながら、この時、そんな気がしていたんだ……。
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