12人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
「ムシビト界?」
思わず二人の会話をさえぎって、ジョンはたずねた。
「ああ、お主は次の順番の、カブトムシのジョンじゃな。ムシビト界は、虫のたましいが人間に近いすがたになって、人間に生まれ変わる修行をする世界じゃ、例えば、ほれ」
エンマ様はつくえの上からせんすを手に取り、ヒグラシに向かってひとふり。
すると、ただの光の玉だったヒグラシのたましいが大きくふくらんで、まるで人間の男の子のようなすがたになった。でも、かみの毛のいろは虫のヒグラシを思わせる黄緑色だし、背中からはすきとおった大きな羽が生えていた。
「人間の姿になったからといって、空を飛んだりといったことが急にできなくなったら不便じゃからの。多少は虫のときのすがたも残す決まりなんじゃ」
「わあ、すごいすごい! 奇跡かな? 魔法かな?」
エンマ様の説明を聞いているのかいないのか、ヒグラシは自分の体をあちこち見まわして喜んでいる。
そんなヒグラシのようすを見て、ジョンもいっしょになって目をかがやかせた。
――すごい、いいなあ!
「さて、ムシビト界に旅立つお主に、この砂時計をやろう」
エンマ様がもう一度せんすをふると、ヒグラシの前に砂時計が現れた。ヒグラシは落とさないように、あわててそれをキャッチする。
「これは何かな?」
「それは『たましいの砂時計』じゃ。ムシビト界で良い行いをすると、その砂時計に『星の砂』がたまっていくのじゃ。それが砂時計いっぱいになったときに、お主は人間に生まれ変わることができるじゃろう」
「つまり、これをいっぱいにするように良いことをたくさんすればいいのかな?」
ヒグラシは空っぽの砂時計をぐるぐると回している。
最初のコメントを投稿しよう!