6.妄想

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 私は念のため周りを見渡した。予想通り教室内には自分以外誰もいない。みんな既に部活に行っている。私は帰宅部で学校からまっすぐお家に帰るのが主な活動内容だ。  日直の仕事が終わってそろそろ帰ろうと思って教室から出ようとした時にちょうど、柴田くんが教室に戻ってきた。その時は戻ってきた理由が分からなかったけど今なら分かる。柴田くんは部活に行こうと教室を出たけど、『ヤバいからな?』と私に伝えるために教室に戻ってきたのだ。  でもさ。何でわざわざそんなことを伝えにきたの──? (にお)いがヤバいのなんて知ってる。私が一番分かってるよ。それなのに……酷い。  涙が頰を伝う。スカートのポケットからティッシュを取り出して涙を拭いて鼻をかんだ。熱い。私の柴田くんへの想いはどのくらい熱かったんだろう。本当に好きだったのかな。分からない……。けど、もうどうでもいい。完全に嫌われてしまった。この恋は絶対に叶わない。  ああ、私が()(いろ)ちゃんだったらよかったのに。  望月(もちづき)灯彩はクラスメイトで、柴田くんと一番仲の良い女子だ。……多分。  ねぇ、知ってる!? 柴田くんと灯彩ちゃんって幼馴染カップルなんだよー!!  もし誰かにそう教えられたら疑わずに信じる。それくらい二人は仲が良さそうに見えた。 灯彩ちゃんは童顔で、それを隠すくらいの大きなベージュ色の眼鏡をかけていて、短い髪を一つに束ねている。背丈は150cm前後で私と同じくらいで、はにかむように控えめに笑う顔がとても可愛い。  あと、目立つタイプではなく地味で大人しいタイプだけど意外と口が悪い。この前、柴田くんに向かって、『バーカ』と笑いながら暴言を吐いていた。(私は陰キャだし毒舌だから人のこと言えないけど。)  柴田くんと灯彩ちゃんはいつも楽しそうにお喋りしていた。いいな羨ましいな、と私は独りで二人の様子を見て密かに嫉妬していた。きっとこれからも、二人は変わらず楽しい時間を一緒に過ごすんだろう。  私は……柴田くんと友達になりたかった。自分の(にお)いなんか気にせずただ普通に話がしたかった。それすらも叶わないのなら私はもう──。
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