6.妄想

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 教室の時計を確認すると四時五十分を過ぎたあたりを指していた。今度こそ帰ろうと思って教室を出た時にふとドアが目に入った。柴田くんに思い切り蹴られたドアだ。蹴られた箇所をさすりながら、  痛かったよね。ごめんね、私のせいで……。  そっと呟く。そしたら、『痛かったよね』というドアに向けての言葉が自分に言っているようにも聞こえて、涙が溢れてきた。  痛い。柴田くんに傷つけられた心が痛い。こんなに泣いたら明日の朝は目が腫れてしまうかも、と不安になるぐらい涙が止まらない。  心が死んだ、って柴田くんに酷い言葉を浴びせられた時に言ったけど今は生きてる。  だって、今も心が死んだままなら痛みも(つら)さも苦しみも虚しさも悲しみも何も感じなくなってるはずだ。だけど、残念なことに全てをひしひしと感じる。多分、心は再び生き返ったんだと思う。本当に生き返ったんじゃなくて、生まれてから死ぬまでにつけられた傷は癒えずにそのままで、ゾンビのように制御不能のイカれた状態で蘇ったと言った方が正しいかな。  でも、柴田くんは悪くないから責められない。(くさ)いことを本人に伝えて何とかしようとするのは当然の行動だと思うしね。だから怒りの矛先は柴田くんではなく諸悪の根源へ向かった。  おい、IBSッ!! 本当いい加減にしろ!! どれだけ私を苦しめたら気が済むんだ!! お前のせいで人生めちゃくちゃだよ!!! ……ああでも、病気に文句言ったって無駄か……。  思わずため息を吐いたら、(なま)(ぬる)くて気持ち悪くて、そのうえ(クソ)のような(にお)いがして吐き気と悲しみが一気に込み上げてきた。
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