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ヤバいのはお前の臭いに決まってるだろ!
マジで吐き気するほどくせーんだよッ!!
柴田くんからぶつけられた二つの言葉を頭の中で何度も何度も反芻してしまう。
「無視してんじゃねーよ!」
柴田くんが荒々しく怒鳴りながら教室のドアを思い切り蹴った。多分、教室だけではなく廊下まで響き渡っただろうガンッという音に私はビクッと肩を震わせて目を強く瞑った。
無視してない。無視してないんだよ、柴田くん。何て返せばいいのか分からなくて黙り込むしかなくて。ねぇ、何て返すのが正解? 何て返せば柴田くんは満足する? 何て返したらこの地獄の時間は終わる? どんだけ考えたって私には分かんないよ……。
「聞こえてんだろ!?」
怒鳴るけど決して私に近づこうとはしない。その理由を考えてすぐに、近づけば私の臭いを嗅いでしまうから距離を取っているんだなと悟った。
柴田くんは教室後ろのドア前の廊下、私は教室のドア付近に立っていて、柴田くんと私の距離は約一メールだ。
精神的にも物理的にも縮まらない距離に絶望する。
何でだろう。何でこんなことになったんだろ。柴田くんにだけは気づかれたくなかったし嫌われたくなかったのに。……好きだから。
ごめん。迷惑かけて、不快な気持ちにさせて本当にごめんなさい。
必死に涙を堪える私を置いてけぼりにして、柴田くんは憎々しげに舌打ちをしてその場から立ち去ってしまった。
立ち去る前に自分に向けられた柴田くんのあの目だけは、この先どんなに楽しいことが起きても生涯忘れることはないと確信していた。下品な女、汚い奴、気持ち悪い、許せないなどの様々な言葉が書いてある、同じ歳の相手に向けるものではない見下した瞳は。
「──やあ、鈴凰ちゃん」
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