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1.ヤバいのは……
「なあ。お前、マジでヤバいからな?」
私──徳永鈴凰はクラスメイトの柴田くん──柴田槙一から腐った生ゴミを見るような、嫌悪感を露わにした顔でそう言われた。
私は驚きのあまり目を見開く。でも、一重で細い瞳(コンプレックス)は少し大きくなったぐらいだから、私の真正面に立っている柴田くんですら目を見開いたことには気づいていないと思う。気づかなくていい。私はちっとも動揺していない。大丈夫だ。
「おい!」
人形みたいに一言も言葉を発さない私に痺れを切らしたのか、柴田くんは苛立った声を出した。
自分の心臓の音と柴田くんに急かされている状況でブルブル震える。元々つり上がっている目を吊り上げて、キツネみたいになっているから凄く怖い。どちらかと言うと、タヌキ顔の方が好きなんだけどどうして私は柴田くんのことを──ってこのあんぽんたん! そんなことどうでもいいからさっさと返事しやがれ。
了解、と心の中でピシッと敬礼してから、本当は勘づいているのに勘づいていないふりをして尋ねた。
「ヤバいって何が?」
「はぁ〜??」
柴田くんは怒りと呆れの感情が顔全体にべったりと張り付いた顔で冷たい声を発した。
柴田くんが口を開けた間だけ、彼の歯がその顔をチラリと覗かせていた。お行儀よく並んでいる私の兄ちゃんの歯たちより、各々好きなようにバラバラに並んでいる柴田くんの歯たちの方が好きだなと感じた。歯並びが悪い方がなんか人間らしい。
柴田くんが再び喋り出す気配がして、バリアを張るように全身に力を込めて両拳を強く握りしめた。
「ヤバいのはお前の臭いに決まってるだろ! マジで吐き気するほどくせーんだよッ!!」
柴田くんが投げた言葉のナイフは、既に血塗れで、数本の細い糸でぎりぎり繋がっていた私の心を凄まじい勢いとスピードで引きちぎってぶっ殺した。
心が殺された。心が死んだ。脆くてあっけないけど死ぬのは当然だと思う。とうとう、好きな人にまで『くせーんだよ』と言われてしまったのだから。耐えられる訳がないだろう。
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