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17:42
「ハッハッハッハ!」
不愉快な声で目が覚めた。
クルフィは、咄嗟に、ここが、敵のアジトかなにかだと思った。そして、敵というのは、もしかしたら、ハンターやそういう類いかもしれない。ハンター撲滅運動だのの騒ぎも、過去にはどこかしらであったようだが、結局のところ、異能力というのは、多くの世界において、便利な道具か、化け物扱いに近いところを持っていたし事実に、それをものともしないほど根強い。
周囲がどう止めても、結局は、決断するのは本人でしかないという話と、似ている気がする。言葉の内容よりも、その人が自分を哀れむ事実、の方だけに重きが置かれることは、それなりにあるのだろう。もっと自分で、気を付けねばならなかったのだ。
ここは比較的安全なところだとは聞いていたが、てっきり油断していたらしい。
彼女は後悔が苦手だったので、とりあえず目を見開き、一秒の間に、目付きを変え、けろっとした。
『生きるのなら考え続けろ』
『無益な後悔はしない』
というのが、彼女自身のモットーだ。守れるかは常に微妙なところだが。
「ん……頭、いてぇ」
「おやおやおやおや」
ぼやいていると、店の前で集まる若者を見たような座り方で、ずっとこちらを見ていたらしい男が笑った。
しかしながら幼稚園の先生になれそうな雰囲気だった。さっきから、笑っていたのはこいつか、とぼんやり思う。
目の前で、ぴょこぴょこと、パペットを動かしていた。
(タヌキ……いや、ヒヨコ?)
男については、ほぼ知らない。オールバックで、エプロン姿の、ひょろ長い男だ。そして……得体がしれない力を持っている。
「お嬢ちゃん、起きたようだね?」
ぼそ、と彼女が数語呟くと、男のパペットが、グシャ、と音を立てて放られた。
「寄るな」
パペットを拾い、指ではたきながら、もう一度、右手にはめ直した男が、不気味に笑む。
「あら、寄るなとは、ごあいさつだね?」
クルフィは、頭のなかで、炎を浮かべた。
鮮明に浮かべることができる。脂の匂いも再現できる。腹が減ったらしい。今、炎に関する呪文を言えば、髪の毛に火がつくのかもしれない。
ふと、パペットを見た。こいつは食えない。
「ハッ、てめぇに挨拶なんてしたくないね」
「きみには皮肉がわからないのかい?」
「そう、そうそう、そうだよ! ……肉が、食いてぇ」
「良いことを教えよう」
「な・ん・だ・よっ! いちいち。こっちは肉が食いてぇんだよ……」
考える気がないクルフィは、ひどくだるそうにぼやいた。
「私は、きみの雇い主だ。挨拶したまえ」
「あ、ていうか……ここは、どこだ? あいつはどこに消えたんだよ……あーもうわかんねぇ!」
キョロキョロしはじめたクルフィは、話など聞いていなかった。聞く気がないともいうが、腹が減って、じっと出来ないともいう。
見回してはみたが、どこだかさっぱりわからない。ところどころ剥がれたり木の枠が縦横みえたりする白い壁。床は、ツルツルした、廊下にあるようなタイルだった。
物は特にない。
学校の、体育館のような広さがあり、窓だけはそれなりにある。
なんの為の部屋なのだろう。
眉を寄せていると、ふいに目の前の、一見、壁の一部と見紛うドアがスライドして開き、誰かが来た。
「……あ、クルフィ……もう、いいの?」
その姿を見止めるなり、彼女は目を見開き、わめく。
「──って、お前っ、どこにいたんだよどこに! 一人で逃げやがって!」
コトは、ぼやっとしながら、丸い盆に入れた急須と湯飲み類片手に中に入ってきた。緊張感のなさに、クルフィは混乱した。
「……この人は──その、おれを見つけたけど……普通の、おじさん、だった」
「はぁ!? コトはいつからそいつの味方にっ」
「……口を慎め」
拳骨が、彼女の頭上を狙った。彼女が咄嗟に避ける。男は、にこにこしているはずなのに、するどい目付きにしか見えない。
わざとらしい咳払いで、仕切り直した男が語り出す。
「まあ、さっき言った雇い主、というのは、嘘だ。きみの管理は一任されたが、しかし厳密には、違う。……上がね、きみを、こちらで」
「なあ、お茶うけ? は、なんだ、コト」
「……あーこれは……饅頭」
「聞けよ」
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