入学式

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入学式

 何故……こうなったのだろう。  駅のゲート前にて涙を流す愛する人を自分は見ているしか出来なかった。  出来れば、傍で慰めたい。しかし、自分にその資格はない。  この状況を作り出したのは自分なのだから…… ☆☆☆☆  今日は、俺八神誠の高校の入学式だ。   趣味はゲームとアニメを少々。成績は中学の時は上位だが、トップ争いに参加する事なく十位代を維持していただけである。ちなみに中学の時の部活は写真部だった。特技も特になくせいぜい家事が少々できるだけである。  学園の制服である黒のブレザーと黒のズボンを着て、一階のリビングでコーヒーを飲みながら幼馴染を待っていた。  インターホンのチャイムがなったので、俺が玄関に出ると、そこには待っていた幼馴染がいた。  名前は香月・エミリア。  金髪をツインテールでまとめ、青い瞳や整ったスタイルはまさに西洋人に見えるが名前からわかるようにハーフである。ちなみに中学の時成績万年一位。小学校の時から可愛らしい容姿で人目をひいていたものの、成長にするにつれて理不尽な域に達している。二人で歩いていると男からは嫉妬の視線を向けられる事もあるが、そいつらに言いたい。  ただの幼馴染ですよ……と 「おはよ、誠。中学の時と何か雰囲気違うね」 「おはよ。そりゃ中学の時は学ランだったんだから違うだろう。」  女子の制服は白のブラウスに赤のリボン、そして黒のスカート。  んでブラウスの上に黒のブレザー。  基本的に男子と同じだ。  リボンとスカート以外は。  そして、見惚れそうなぐらいに良く似合っている。  俺の視線に気づいたのか、小悪魔のような笑みを浮かべ 「どう?似合っている?彼女にしたい?」  と言いながらぐるっと回る。 「良く似合っているけど、俺達ただの幼馴染だろ。そんな冗談言われると俺でも信じちゃうぞ」  と俺が答えると金髪の幼馴は頬を膨らませる。  そして 「ほんと誠は鈍感だよね……そんなんじゃモテないよ?」  と言われた。  く、気にしている事を……  しかし 「エミリアだって彼氏いないじゃないか……」  そう、この金髪の幼馴染も何故か彼氏がいないのである。 「あたしの場合は彼氏作ろうと思えば作れるけどね。……作ろうと思えば作れるのと、作れないのは違うからね。」  と金髪の幼馴染は自信満々に言う。  まあ、俺と違ってこの幼馴染は本当に作ろうと思えば作れるんだろうけど……  でも、それを想像したら何となく胸が痛くなった。  何故だろう?  そして、エミリアが微笑を浮かべながら 「まあ、誠はあたしがいるからそんな心配しなくても大丈夫だよ。」  と返した所で、母ちゃんが玄関に出てきた。 「おはよう、エミリアちゃん。良く似合っているわよ。」 「ありがとうございます、勝枝おば様。」  と金髪の幼馴染が頭を下げると  母ちゃんが 「エミリアちゃんにおば様って呼ばれるのは嫌よぉ」  と言い始める。  何、言い出してるんでしょうね、うちの母ちゃん。そしてエミリアは 「すみませんでした、勝枝お義母様」  と謝って訂正している。うん、この幼馴染もたいがいだった。まあエミリアはふざけて乗っているけど、多分。  エミリアの言葉を聞いた母ちゃんは嬉しそうに頷いている。まあ、うちの母ちゃんはエミリアを娘のように可愛がっているから、そう言われたかったのだろう。  まあ、こんなどうでも良いコントはここまでにして学校に行かないと。  一応、初登校だから時間に余裕を持って登校したい。 「エミリア、そろそろ行こう。」  俺はエミリアを誘って玄関を出ると後ろから 「行ってらっしゃい」  と母ちゃんの声が聞こえてきた。 ☆☆☆☆    玄関を出て二分ぐらい歩いて 「何か高校になっても登校は変わり映えしないな」  と俺が呟くと 「何?誠は変えたいの?」  と金髪の幼馴染は蠱惑的な笑みを浮かべていきなり腕に抱きつく。  ブラジャー越しでもおっぱいは柔らかい……じゃなくて 「変えたいとか以前に恥ずかしいんだけど。周りに見られたら……」 「なら誰も見てなかったら良いのかなぁ?」  金髪の幼馴染は耳元に口を近づけて囁く。  理性が崩壊しそうになるが、何とか抑えながら 「そういう問題じゃないからね」  と何とか言えた。  ただ、エミリアの顔を良く見てみると普段白い幼馴染の頬も若干赤くなっていた。 「エミリアも恥ずかしいんだろう?顔赤いし」  俺は一息ついて続ける。 「顔赤くしてからかわなくても……え」  エミリアの機嫌がみるみる悪くなっていた。  顔は笑っているが、付き合いは長いため幼馴染の気持ちがわかってしまうのだ。 「ふーん、誠にとってこれはからかいに見えるんだ……」  エミリアは手を放すとズカズカと前に歩み始めた。 ☆☆☆☆    そのまま無言で歩いてバス停につくと、そこには友人山口・陽平が待っていた。  山口・陽平、平凡な俺と違い長身で顔も整っている。しかも中学の時サッカー部のエースで性格も良いから超絶モテる。しかも中学の時学年三位以内には必ず入ってやがったから頭も良い。 「おはよ。……ん?エミリア超絶不機嫌じゃん。何かあった?」  エミリアは微笑を浮かべて 「別に何にもないよ」  と言っているが、不機嫌なのはバレバレである。 「俺の気のせいかな。……そういえば昨日さ……」  と陽平が苦笑を浮かべながら話題を変えて、この場の雰囲気を変えてくれた。  マジ、親友に感謝です。 ☆☆☆☆  俺達はバスを下りて、校門を潜り、俺達は高校の敷地内へと踏み出した。  真っ先に飛び込んできたのは、校庭全体に広がる桜並木。それもかなりの本数。  かなり綺麗な校庭だ。校庭だけでも結構な広さがある。  校門に近付いた時、ある光景が俺の目に飛び込んできた。  「ん?」  校門近くの掲示板に貼られた紙を見ようと集まっている多くの生徒達。  恐らくクラス表だろう。 「うわ……あの様子じゃ一時見えねぇな」  陽平が隣で頭を抱えている。  「早く出てきたつもりだったけど、まあ仕方ないか。」  溜息混じりに金髪の幼馴染は言う。しかし、少し早く出ようと言ったのは一応俺だからね。  しかし、あの人だかりを何とかしたい。  でも一向に減りそうにも無い。 「行くか、陽平」 「了解。まあ行かないとどうしようもないからな。」 「あたしも行く。待っているだけと言うのもアレだし」  とエミリア。女の子を連れて行くのも何だかなと思わなくはないが、エミリアもなんだかんだで運動神経は良いし、問題はないだろう。  まあ、こんな感じのやり取りを終えた俺達はクラス表の元へと歩を進めた。 「うおっ、一緒のクラスじゃん!」 「あっ、E組だ」 「俺だけ違うクラスじゃねーかよ……」 「見えん! 見えんぞ!」  歓喜する者や落胆する者、クラス表の元に集まる生徒達は多様な反応を見せている。  中には必死に背伸びをして見ようとしている者もいる。  それにしても、こうもクラス表が見えないと結構焦れったい。  少し悪い気がするが、ここは割り込ませてもらおう。 「すみません……ちょっと」  そんな言葉を連呼しながら俺達は人混みを掻き分け、クラス表が見える場所まで移動する。  主に男達にサンドイッチにされ、非常に窮屈してて苦しいが、今はそんなこと言ってられない。  必死に目を凝らしてA組の欄から見ていった結果、俺達の目はまずB組の所で止まった。  『香月・エミリア』  とあった。  ちなみに俺と陽平はD組だった。 「なんであたしだけB組なの!」  とエミリアは不満を口にした。しかし、この幼馴染、友人は結構多く、コミュニケーション能力も高いので、俺と違ってクラスでボッチになる可能性は皆無だ。 「とりあえず行こうぜ。」  陽平の言葉で俺達は移動を開始した。 ☆☆☆☆    そんな訳で俺達は一年生の教室前を廊下を歩いている。  窓からは澄み切った青空と校庭に生えてる桜の木が見える。  廊下には沢山の生徒が忙しそうに行き交っていたり、雑談している者など様々だ。 「なあ、今日帰りカラオケとか行かね?今日は部活とかないし」  と歩きながら陽平が声をかけてくる。  まあ、確かに入学式後に新入生は部活はないだろう。  エミリアが俺に視線を向けてくる。  俺は頷いた。 『誠はどうする?』 『OK』  みたいなやり取りを無言で行った。  付き合いも長いので、これぐらいのコミュニケーションぐらい楽勝である。 「良いよ。」  と俺とエミリアは声をそろえて言う。 「じゃあ、俺達はB組まで迎えに行くよ。」  こうして、俺達はエミリアと別れ、自分のクラスに向かった。 ☆☆☆☆ 一年D組。  そこは他のクラス同様、様々な生徒達が雑談等をしながら過ごしている。  教室のドアを潜った直ぐに目に入った黒板には、白のチョークで座席表が書かれている。  俺の席は……   教室の窓際の二番後ろだ。陽平の前である。  自分の席に座り、後ろの席の陽平と雑談していると 「席につけ。」  ぼさぼさした髪を手でかきながら、白衣を着た男が入ってくる。 「あと十分で入学式が始まる。今から体育館に行くから出席番号順で廊下に並べ。」  廊下で俺達は並んで陽平と話していたが、しかし中々進まないもんなんだな……  どっかのクラスがまだ列べてないのか?  大変だな、先生も。  うん。将来教師は絶対に止めよう。  最近モンスターチルドレンやモンスターペアレントが増えているらしいし。  後ろで並んでいる陽平と話して時間を過ごしていると、遂にA組が進み出したようだ。  A組の次はB組。そしてC組の最後尾との間がある程度開いた頃、ようやくD組の番に。  先程の男教師が言ってた通り、入学式は体育館で行うらしい。  俺達が向かう先は体育館。場所はよく知らない。  取り敢えず、今は偉い人(例えば校長)の話が短く終わることを祈っている。  そんなどうにもならないことを考えながら、前の人の背中に付いていったらようやく着いた。渡り廊下と校庭を延々と歩いた覚えしかない。  体育館じたいはどこの学校にでもあるような普通なもの。  今、俺達が突っ立ってるのは体育館の入口の手前。入場もA組からで、やっとD組に回ってきたところだ  体育館の中からは、拍手が絶えることなく聞こえる。  適当にぼーとしている内にもクラスメイト達は次々と入場していき、早くも俺達が入場する番に。  もちろん俺も皆と同様に入口を通り、体育館の中へ。  体育館を二分するように敷かれた絨毯と、それを挟むように並べられたパイプ椅子群が並べてあった。  入学式を見に来た保護者の人達や先輩達がが座っている。  そして奥に見えるのは入学式と書かれた看板が奥の壁に設置された檀上。  その後、男女二列で入場した俺達は左右で別れ、並べられたパイプ椅子に奥から詰めるように座っていく。  もちろん俺もパイプ椅子に座った。後は残りのクラスが入場し終えて、入学式が始まるのを待つのみである。
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