ライフライン

5/11
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 一応画面に「斯波正人」が表示されてるのは確認したし、最初から本題に斬り込もう。前置きはもう充分過ぎる。 「……た」  ……待ってくれ? 「た」しか聞き取れなかったぞ? 「え?」 「熱……」 「ええっ!?」  待って待って。正人さんが熱出したなんて、知り合って14年、初耳なんですけど!? 文字通りの鬼の霍乱じゃないか。 「……あとは……たの……」 「後を頼まれても困ります! 測ったんですか!?」  ヴォーカルの英彦さんも、ドラムの小沼さんも、大先輩なんだ。一番歳下の俺にグリフィンなんて大名跡を任されても困る。  じゃなくて、正人さんにいなくなられたら困る。ギタリストとしても、恋人としても。 「いや……」 「ないんですね、体温計」  少なくとも俺が知る限り、病気らしい病気をしてないんだ。体温計がなくても不思議じゃない。 「……ああ……」 「喉も痛いんですね」 「ああ……」  声も掠れてる。完全に風邪だろ、これ。咳は出てないみたいだけど。  ……かなりの確率で死なないな。 「食事は。薬は飲みましたか」 「ない……」  いつになく元気がない。当たり前か、風邪引いてるんだから。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!