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一応画面に「斯波正人」が表示されてるのは確認したし、最初から本題に斬り込もう。前置きはもう充分過ぎる。
「……た」
……待ってくれ? 「た」しか聞き取れなかったぞ?
「え?」
「熱……」
「ええっ!?」
待って待って。正人さんが熱出したなんて、知り合って14年、初耳なんですけど!? 文字通りの鬼の霍乱じゃないか。
「……あとは……たの……」
「後を頼まれても困ります! 測ったんですか!?」
ヴォーカルの英彦さんも、ドラムの小沼さんも、大先輩なんだ。一番歳下の俺にグリフィンなんて大名跡を任されても困る。
じゃなくて、正人さんにいなくなられたら困る。ギタリストとしても、恋人としても。
「いや……」
「ないんですね、体温計」
少なくとも俺が知る限り、病気らしい病気をしてないんだ。体温計がなくても不思議じゃない。
「……ああ……」
「喉も痛いんですね」
「ああ……」
声も掠れてる。完全に風邪だろ、これ。咳は出てないみたいだけど。
……かなりの確率で死なないな。
「食事は。薬は飲みましたか」
「ない……」
いつになく元気がない。当たり前か、風邪引いてるんだから。
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