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思わず吹き出す。彼女って。あの鬼軍曹が彼女って。
「そのご様子だと、重症ではないみたいですね」
なるほど、そう解釈しましたか。
「多分。本人は珍しく体調崩したんでへこんでますけど」
「お客さんの顔見たら元気になりますよ」
「ですね」
どうだろうなぁ。いきなり絶望してたからな。健康診断の箸にも棒にもかからないのが自慢だったから。
タクシーはスムーズに正人さんのマンションに到着。礼を言いながらちょっと多めに支払って下車。小銭のお釣りを遠慮しただけだけど。
正人さんちは一階だ。チャイムを押すだけ押して、合鍵でドアを開ける。これでも一応、付き合ってるんで。
正人さんも、どうせそうするだろうって予想してたんだろう。ベッドルームを覗くと布団をかぶってる。
「正人さん、どうですか」
「死ぬ」
「死にませんってば」
レジ袋の中から、体温計を探り出してパッケージを開ける。
電池の絶縁抜かないと……って、薄暗くてちょっと見えないな。
「電気つけますよ」
一言ことわってからスイッチを入れる。正人さんは眩しそうに顔を顰めた。
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