ライフライン

　ふう、と一息ついて、冷め切ったコーヒーを飲み切る。コンペに提出する曲のデモがようやく完成した。
　プロツールスくんもお疲れ、と労いの声をかけて送信ボタンを押す。
　さて、アップロードしたら後は結果を待つのみ。今日はこの辺りで仕事を切り上げて、ビールで乾杯と行こう。
　冷蔵庫から缶ビールを取り出して、プルタブを引きながらパソコンの画面を覗き込む。まだもう少し時間がかかりそうだな。
　腰を下ろして、そばに置いてあった携帯電話を開く。
「あ、正人さん……」
　正人さんからメールが届いてる。少し焦ったけど、さっきだ。良かった。
　にしても珍しいな。
　正人さんは、俺がギタリストとして所属するヘヴィメタルバンド・グリフィンのベーシストかつリーダーにして鬼軍曹。
　何ていうか昔気質っていうか……今時、携帯電話を持つことを拒否しまくってた。
　でも、あまりにも、あまりにも今時不便すぎる。
　俺をはじめ、メンバー、スタッフ総がかりで延々と説得工作を続け、ようやく最近持つようになってくれた。
　契約からセッティングからレクチャーから、プロデュースドバイ俺なんですけど。
　そんなだから、滅多にメールなんか送って来ない。