愛しのヴェロニカ

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 さて。俺のヴェロニカは、祖母ではなく母だ。  母は今、認知症の入口に立っている。アルツハイマー型ではないが脳が萎縮し血行が悪くなっているそうで、認知障害の進行は止められないという。  確かに数年前から、話にやたらとリフレインが多くなったり、モノ覚えが極度に悪くなったのは気になっていた。しかしまだ一人暮らしができているし、加齢による衰えだろうと、俺も本人も思っていた…いや、そういうことにしていただけだ。  なんの根拠があるのか、昔から「天然ボケの人は歳を取ってもボケない」と言われる。この法則でいえば母はボケないはずなのだが、どうなってるんだ。結局は都市伝説じゃねえか!…と憤慨してもどうにもならない。  そう。母は結構な、いやかなりの天然さんなのだ。  だいぶ古い話だが、健康にいいと「ケフィア」(ロシアのヨーグルトの一種)がブームになった時。それは別名「ヨーグルトキノコ」と呼ばれていたことから、母はさらに大昔の健康ブームであった「紅茶キノコ」を思い出したらしく。 「そういえばさ、昔もこんなのあったよね。えーとなんだっけ、えーと…そうだ!『コーヒーヨーグルト』!」  瞬間、コーヒーを飲みながら歓談していた皆が一斉に噴出したのは言うまでもない。飲むのが紅茶だったら間違えなかったかもね?…いやどのみちキノコはどこ行ったって話だが。
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