愛しのヴェロニカ

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 そんな感じの人なので、いつから認知障害が出たのか定かではないが、思い返せば、父が亡くなる前後の諸問題にブチ当たったあたりからではないかと思う。  俺の父は、母へのDVにモラハラに過干渉、不倫、借金、俺には精神的ネグレクトなど、アレな要素がロイヤルストレートフラッシュの如く揃った男であった。仕事だけは異常なほど真面目で、外面は良かったのがむしろ腹立たしい。  トドメには、ガンで死ぬ間際に自宅をカタに入れた大借金が発覚するという、もはや何人(なんぴと)たりとも寄せ付けない高み…無双状態のまま逝った。  葬儀と前後して、その借金を片付けるための裁判で、俺たちは無駄に忙しく精神を苛まれる日々を過ごした。何せ父の問題以外は…と言う時点で相当微妙だが、まあそれなりに平凡に懸命に生き、すっかり老いた母が、民事とはいえ青天の霹靂で裁判などするハメになったのだ。  ストレスの元凶だった父と図らずも訣別して、ようやく平穏な日々が訪れると思われた人生の終盤で、その心労はいかばかりであったかと今でも思う。  裁判中から「頭がこんがらがる、私バカになったみたい」などと言っており、おそらくその頃から母は自身の異変を感じていたのだろう。しかし当時は俺も心の余裕がなく、その言葉に向き合うことができていなかった。本当に情けないダメ人間で、この一点だけでも母に顔向けできない。
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