愛しのヴェロニカ

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 父の葬儀や裁判が終わってから、しばらく母は元気がなく塞ぎがちに見えたが、それも疲れが原因だろうと思っていた。  そんな中、父の死前後になると実家を行き来することが大幅に増えた俺は、今まで気づかなかった異状を知ることになる。  母が連日、深夜に床から起き出しては、何かをしていたのだ。  台所で物音を立てており何事かと降りてみると、母が冷蔵庫の中のものを、定まらない目つきで無心で食べているではないか。異様な様子に俺は無理矢理寝かせつけようとするが、なかなか寝ない。何度でも起きてくるのでついこちらも怒鳴ってしまう。そんなことが何日もあった。  その光景だけで絶望には十分だったが、さらに俺を絶望させたのが、翌朝にそれらを聞いてもほとんど覚えていない、という点であった。  だがこの時点では認知症を疑う前に、もっと強く思い当たるフシがあった。  睡眠導入剤だ。
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