愛しのヴェロニカ

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 母は慢性的な不眠を訴え、相当な期間、眠剤を服用していたのだ。その薬の代表的な副反応として、深夜徘徊、無意識の暴食、記憶障害があることがわかった。俺は母を説得…いや半ば強制的に、地元の大病院に連れて行った。  副反応による行動中は、確固とした意識がない。暴食による胃腸の不調くらいならまだしも、大怪我や火事、そして最悪のケースは…体が衰えているだけに、とにかくあらゆる危険に満ちている。  病院に相談すると症状が深刻と判断され、即検査入院。結果、深夜の異常行動の直接の原因は、ほぼ確実に眠剤の副反応であることがわかったのだが…  その検査により、同時に認知症が進行し始めていることが発覚した。  不眠を理由に渋る母を散々怒鳴り、互いに憔悴しながらも、どうにか最大の元凶である眠剤をやめさせることには成功した。だが認知症はどうにもならない。この病気は、現代の医療水準では好転することはなく、良くて現状維持しかないのだ。  今の母は、初めて見聞きすることは、どんなに簡単な内容だろうが理解できない。調子が悪い時は、数分前の話も覚えていられない。そもそも人の話を論理立てて聞くことができない。だから医者の話もわからないので、正しく服薬することも難しい。
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