入学式の朝

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今読んでいる本は、冲方丁作の、天地明察という題名のものだ。江戸時代前期に活躍した、天文学者の生涯を描いた本である。小学六年の夏、自由研究のためと思って買ったのだが、結局読まずに放っておいてしまっていたのだ。家を出てから数分後、歩きながら本を読んでいると、後ろの方から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。 「おはよう、飛永。何の本読んでいるの?」 「麗香(れいか)、おはよう。これは、冲方丁という人が書いた、天地明察って本だよ。江戸時代に活躍した天文学者の話なんだ」 今、話しかけてきた彼女は、烏葉麗香(からすば れいか)。幼馴染だ。保育園から同じで、母親どうしも仲がいい。いわゆる、ママ友というやつだ。彼女とは家が近く、小学校低学年の時位までは、よく一緒に遊んだものだ。 年を取るにつれ、男女の壁ができてお互いを異性としてとらえるようになった。今では、あまり話すこともなくなってしまっていた。しかし、たまにはこうして話すのも良いことだと思い、中学に行くまで一緒に話すことにした。 「麗香のブレザー姿、似合ってるよ。いかにも中学生って感じだね」 「そんなことはないよ。着替えるのが遅いってお母さんに怒られちゃったもん」 「実は、僕も同じようなことがあったんだよね」 どうやら麗香も僕と同じようなことで親に怒られてしまったらしい。 「そうなんだ。真面目な飛永にもそんなことがあるんだね」 「ははは……」 「飛永は性格かわらないねー。そんなんじゃ中学で友達できないよ」 麗香の皮肉じみた言葉が僕を襲った 「麗香はだれとでもフレンドリーに話せていいよね。そんな麗香の性格が羨ましいよ」 「私だって、苦手な人はいっぱいいるよー。小学校の池島先生とかー松田先生とかー。数えたらきりがないけどね」 池島先生と松田先生は、僕らが小学生の時にお世話になった先生だ。池島先生は、教育主任の先生、松田先生は僕らが六年生の時の担任の先生だ。池島先生は他人との距離の取り方の悪さに定評がある先生で、フレンドリーすぎる感じが嫌いな人が多かったようだ。松田先生は、生徒がしてしまった悪いことに対して、しつこくそのことを言及してくるような先生だった。無論、生徒が反省した素振りを見せなかったということも原因としてあると思うのだが。
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