入学式

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入学式

教室に行くと、生徒は皆座って静かに先生が来るのを待っていた。初日だからといって、こんなにも静かに待っている必要はないのに……と僕は思う。周りを見渡すと、同じ小学校だった生徒も数人いた。こちらを見て、手を振ってきたので、僕も振り返す。教室にまだ麗香の姿はなかった。 席について、麗香との会話のために読むのを中断した小説を開く。天地明察(てんちめいさつ)、題名は難しいが、内容は中学生にもわかりやすく、読んでいて楽しい。元々僕が小説をよむのが好きなこともあってか、二日あれば読み終えてしまいそうだ。読み始めようとしたとき、前の席の生徒がいきなりこちらを向いて話しかけてきた。 「よぉ、飛永。春休みは何して過ごしてた?」 「あれ、前川も同じクラスなのか」 椅子に座りながら後ろを向いて話しかけてきたこの生徒は、前川翔太(まえかわ しょうた)。小学校三年生の春、僕がいじめられていた張本人である。麗香のおかげで、今は仲が良く、小学校高学年くらいの時は、よく一緒に遊んでいたこともあったくらいだ。 「僕は家で読書かゲームしてたよ。そういう前川は何してたの?」 「俺は、北海道にある親の実家に行ってたぜ。長い間行ってたから、ほとんど遊べなかったけどな。まぁ、うまいもん腹いっぱい食えたから満足したよ」 「北海道かぁ、いくら丼たべたいな」 「俺はいくらとサーモンの親子丼に、カニ、ウニ、いっぱい食べたからもう一年くらいは北海道行かなくてもいいかもな」 「そんなこと言われても、羨ましくなるだけだよ」 前川も僕と同じく、素で人を不快にさせることができる人間だ。僕もそうだが、本人に悪意がないというのも厄介なところかもしれない。人の振り見て我が振り直せというように、僕は前川と話していて、自分もその癖を直したほうがいいなと思った。 「じゃあ、さ。中学校の冬休み、仲いい奴らで北海道行かねーか?」 「いいねー。スキーとかスノーボードは苦手だけど、海鮮は食べたい!」 前川の性格に裏表はない。なにしろ、自分の欲に忠実なだけかもしれないが、こういう人間の方が、好感度があったり、将来成功したりするのだろう。前川と話していると、高校生くらいの女の人が教室に入ってきた。
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