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「やーさん似合うじゃ~ん! なぁ、しっぽセンセー?」
「おー、顔がハッキリ見えてええやない。男前やで、秋月」
「…………面白がってんだろ、アンタ」
せっかくの褒め言葉も、秋月はどうやら気に入らなかったようだ。
とはいえ、長い前髪が上げられて、顔がハッキリ見えている秋月のことは新鮮で、素直に似合いだと思ってしまうのは、惚れた欲目なのだろうか。
「ハーフアップよりも高い位置になっちゃった。ショートポニテみたい」
「ショー……なんて?」
「まっ、前が見やすくなって良かったじゃん! って! そろそろ行かねぇとまっじでてりやきなくなる!」
「やーさん、スケさん、行くぜ!」大海原がバタバタと駆け出した。
校内のあちこちに貼ってある、『教室内や廊下を走るのはやめましょう』の標語も、彼の目には入っていないだろう。仕方のないヤツだ。
「限定10個ならもう無理じゃな~い?」
「ならスペシャルフルーツサンド2個買う!」
「ちょ、それはオレが買うんだってば! ほら朔、行こっ!」
「……お前が座らせたんだっつー……」
カタンと椅子を鳴らして立ち上がった秋月が、じっとこちらを見据えて、
「すぐ戻っから」
そう呟いた。
その言葉に、自然と眦が下がる。
「「いってきま~す!」」
来た時と変わらず、騒がしく出ていく二人と、そんな二人に背中を押されるように保健室を出た秋月を見送りながら、ひらりと掌を揺らす。
「いってらっしゃい」
【初夏とハーフアップ_完】
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