初夏とハーフアップ

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初夏とハーフアップ

 最近の保健室は、ちょっと賑やかだ。  そろそろ〝彼ら〟がやってくる。 「やーさん! 購買行こうぜぇー!」 「さっき他のクラスのヤツから聞いたんだけど、今日惣菜パン入れ替えの日で、えーっと、なんだっけ?」 「あれだって! ジャンボてりやきドーナツ! 限定10個だって!」 「だってさ! 早く行かないとなくなるよ?」  けたたましく戸が開いた次の瞬間には、大海原(わたのはら)志賀(しが)がやいのやいのと秋月(あきづき)を囲んで騒いでいる。  そんな二人をちらりと見て、秋月はうんざりとした顔で大きなため息を一つ。 「声がデケェ」  ここは保健室だ。急病人や怪我人が寝ていないとも限らない。  これでも注意はしたのだ。けど、すぐに忘れて翌日から元通りになるから、注意は三回目で綺麗サッパリ諦めた。  秋月から言わせると「アンタはアイツらに甘すぎる」んだそうだ。 「オレねー、今日こそスペシャルフルーツサンド買うんだ~。いっつも売り切れで悔しくって!」 「あのすげー甘そうなやつ!? スケさんって甘いもの好きなんだ? あ、好きか。プリンとか食ってんもんな!」 「好きだよ~。幸せになるじゃない? 甘いものって」 「たしかに!」  秋月の苦情を無視してなお二人の会話は続いている。  さぞかし呆れているだろうと秋月を横目に見やれば、呆れを通り越してもはやゲンナリとした様子だ。  二人の(やかま)しさもあるのだろうが、もう一つ原因に心当たりがある。 「今日はあっついなぁ……もうすっかり夏の日差しやね」 「夜はマシになるといいけどな……暑いとコンクリに座れねぇ」  そう呟いた秋月の(ひたい)に薄っすらと汗が(にじ)んでいる。
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