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【4】真夜中の秘密
ミアに割り当てられたのは昼間、目覚めた大きなベッドがある部屋だ。オセは隣の部屋。ふた部屋には天と地ほどの差があって、オセは文句を言っていたが、ミアは知らんぷりをしていた。
ミアは興味深くて、部屋のなかを見て歩いた。隅に置かれたリボンの掛かった箱をこっそりと開けてみる。そこには真冬に必要になりそうな毛皮のコートや帽子が入っていた。
「こんな寒いのに、なんで暖炉を使わないんだろ」
双子のアントンとヴァジムのように、暖炉の中へ入って上を見上げ、持たされたランタンを煙突の中へ掲げてみる。積まれた石の隙間から生えた草やそこで発芽した木の細い幹が見え、そこは小さな森のようになっていた。
「これ、冬になったら部屋が凍りつくんじゃないか」
皆が集まるのは夏だけだから、冬に必要な暖炉は手入れされていないのかもしれない。しかし、箱の中には毛皮のコートや帽子。なんだかチグハグで、ミアは首を傾げていた。
今まで、獣にしか興味がなかったミアは少しばかり獣人に関心を寄せていた。
オセの荷物に紛れ込んでいた動物進化の調査に必要な簡易検査キッドが入ったポーチも受け取った。そこには、第二の性を調べるキッドも入っている。地上でも簡単に調べられるよう、ミアが開発したものだった。機会があれば、シャノンやアルマの血液サンプルも採取してみたい。
「ミア、湯を運んできたよ」
「湯?」
ノックされた扉を開けると、大きな木製のたらいとランタンを持ったシャノンがいた。その後ろには数人の獣人が湯を持って立っている。
「人間はきれい好きでしょ?今日は、余震が心配だから大浴場の湯炊きを止めてしまったからね」
廊下を見ると隣の部屋も同じようにノックされている。そこにエフレムもいた。
「こんな時に、お気遣いありがとうございます」
シャノンが部屋の一角にたらいを置くと、獣人たちがそこへ湯を注いでいく。湯気が立ち上り、冷えていた部屋の温度が少し暖かくなったような気がした。
「皆さんは?」
「俺たちは、運河の仕事が終わると水浴びしてから修道院へ戻るので、一日くらい風呂に入らなくても平気です」
「そうでしたか」
ミアが膝を折って入っても充分な大きさのあるたらいを囲い込むように、つる草を縒ったロープが壁に渡された。そこへ身体を拭くための大きめの綿布が吊るされ、ランタンを置くと簡易風呂の出来上がりだった。
「お風呂だ」
「冷めないうちにどうぞ」
「ありがとうございます」
ミアはブーツをぬぎ、パライバトルマリンのブローチを外した。マントを近くのチェストへ置き、ブラウスのボタンを外し始める。
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