【3】氷の修道院

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「辺境伯!?」  獣人を統率する各種族の長が、この地上にはいる。四長と呼ばれ、その名はライノ、プカルル、アルマ、そしてシャノンーー。強い力を持ち、広大な土地を治めているため、シャノンだけは『辺境伯』とも言われた。 「そういえば着任式の日、始まってそうそう気絶したのミアだったな」 「な……ッ、ちょっと!アルマ様、どこから現れました?!しかも裸って、寒いでしょうに。頭イカれているのですか、ふざけてます??」  唐突に裸で立っているアルマに、ミアは頬を膨らませた。 「どこから現れたって。俺、飛んでましたけど?」 「はい??人間じゃないのですか!」 「人間って言ってないだろ、俺」 「…………変化(へんげ)できるってことですか」  ミアが変化と言っているのは、人型から獣へと言うことだ。変化できる獣人についての情報は、今まで無かった。さすがのオセもそのことには驚いているようで、顔を引きつらせている。 「ーーミア、いい加減にしろ。四長の前だぞ」  オセがミアの事を睨みつけていた。 「そもそも、オセ!お前が着任式の時、私の前だったから何も見えなかったのです。だいたい、こんなチャラい人が辺境伯のはずないだろう」 「ミア、彼の右左から顔出して前見ようとしていたよね」  シャノンに抱き止められているが、それはオセに飛び掛からないための安全装置に過ぎない。 「シャノン様、離してください!なぜそれを知っているのですか!」 「前から見ていたから」  式典の時、前に四長がいた。が、外で行われていた式典の初っ端で、もふもふの猫が会場に飛び込んで来て、初めて見る動物に興奮しすぎたミアは失神してしまったのだ。  四長の前でスピーチもするはずだった。が、ミアは涼しい木陰へ運ばれ、気がつけば割り当てられた部屋のベッドだった。 「――アルマ様、前に一度お会いしていましたね」 「思い出してくれた?」 「はい。着任式の日、付き添っていただいていました 」 「僕もミアが目を覚ます直前まで、いたんだよ。こっちで地震が起こったって伝書が届いて先に帰ってしまったのだけど。制服姿のミア、可愛かったなぁ」  ミアはシャノンの腕の中からスルリと抜け出し、オセの左側に並んで膝をついた。 「ーー数々の無礼、申し訳ありません」  頭を下げる事、それはミアが最後まで研修でできなかったことだ。そしてオセの左に並んだと言うことは、自分の間違いを認めたことになる。 「ゴフッ」  ここはきれいに整列しなければいけないところなのに、オセに肘をぶつけられたミアはうめき声を上げてしまった。 「いつまでふざけてるんだ、お前は」  訓練通りに並んだはずなのに、どうやら近くに並び過ぎたようだ。 「いいよ、そんなこと。ミアは僕の特別なんだから」  シャノンとアルマはとても仲が良いようだ。肩を組み、目を見合わせて笑い合っている。 「さあ、立って。まず、このリオート修道院の中を案内しよう。そのあとは夕食だ。アルマは休んでて。空の旅、お疲れ様」 「この部屋、使っていいのか」 「駄目に決まってるだろう。殺されたいの?」  シャノンは笑いながら威嚇するように、鋭い犬歯をむき出しにしていた。
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