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【2】最果ての絶望
『あん、あッ、あッ』
『キャハハ。エフレムってば、何回イッてるの?ズルイ』
(キャハハ、じゃない……)
『皆、スケベだな。好きにしていいぞ』
地下で581番として生きてきた彼が、ミアと言う名を与えられたのが三年前――。
派遣試験合格者でも脱落する厳しい研修期間を一年経て、ミアを含め六名が地上へ派遣された。
首都ニューラでの生活は快適で、地下では味わうことのできなかった春夏秋冬を肌で感じ、ミアは調査とは言え、地上での生活を満喫していた。
が、期間満了を目前に控えた今、ミアは絶望している。
思えば、それは今に始まった事ではない。どこだか分からないこの土地へ来るまで、絶望の連続だった。
「アルマ様、申し訳ありません。私、首都へ帰らせて頂いてもよろしいですか」
「駄目だ」
ミアは、手元で見ていた懐中時計をパチンと閉めた。
「なぜです。いったいここで何時間、待たされるのですか」
「あれ?ミアってオッドアイなんだ。気づかなかった」
このノリが軽い、面識のないアルマと言う男が、首都ニューラに住むミアの部屋を訪ねてきて、こう言ったのだ。
『ミア、君にぴったりの木箱が見つかった。ちょっとだけ、入ってみてくれるかな』
『……?』
おそらく、そのひと言から絶望は始まっている。嫌だと拒否すれば夏だと言うのに毛皮を被せられ、半ば強引に箱へ押し込められた。そしてミアが経験したのは、言葉にするのも恐ろしい空の旅だった。
『気持ちいい……ッ、辺境伯』
「それに聞こえてくるこの声は、なんなのですか」
その声は、奥の部屋から聞こえて来るようだった。
「そんな野暮なことは聞かないでよ。もしかして、ミアって童貞?」
「は?」
「女の人、抱いたことある?」
「それは、どういう意味ですか」
ミアは、アルマの言っていることが本当に理解できないようで頭の中の知識を総動員している。
「子作りした経験はあるかって聞いてるの」
「それは交尾という解釈でよろしいですか」
「そうそう、交尾」
「我々、人間は人口調整のためシャーレで受精し、羊水タンクで育ち、既定の重量になると自動的に外界へ産み落とされるので、その必要はありません。アルマ様も人間であれば、ご存じでしょう。それとも馬鹿なのですか」
「俺が人間?」
「皆のように耳や尻尾が生えていないじゃないですか」
「ああ。そういう事ね。ミアはこっちで動物について研究しているんだよね」
「はい」
地上調査については秘密裏に行われている。そのため表向きは、動物進化がミアの研究だった。一次試験もその内容で論文を書いているから、あながち嘘ではないし、首都でも地下帰還後の研究のためサンプルをたくさん採取した。
「どんな内容なの?」
「話せば、長くなります」
「まさか、モフモフ可愛いとか言うなよ」
「モフモフ」
(……可愛い)
地下には人間以外の生命体は存在しない。
食事はジェリーで済ませ、肉や魚、果てには昆虫など本来、人間が口にしていた物を一切食べることはなかった。
温度や空気はAIによって管理され、太陽を模した光源がある高い天井には巨大スクリーンがある。そこに映し出される刻々と変化する空を見て、ミアは育ったのだ。
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