忘却のティモシー

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「悪いな、中断させて。アニメの続き見ような」 「みるー!」 「ええ、そうね」  息子はまだ二歳のやんちゃ盛り。共働きでの子育ては簡単なものじゃない。相談した上で、妻には育休を、俺は時短勤務を許してもらうということで店には話をつけていた。給料は若干減ってしまうが、子育てを妻一人に押し付けるよりはずっとマシだと思っている。そのために、子供を作る前に切り詰めて貯金を作っておいたのだ。今の自分達にとって必要なのは、お金よりも家族の時間である。  目を離すと何をしでかすかわからない危なっかしい息子だが、ぱぱ、ぱぱ、とテトテト歩いてきて、笑顔を振り撒いてくれる様は最高に可愛らしい。妻に似て、とても愛嬌があり、人見知りしない子だった。また、集中力もあるのか、好きなアニメを見始めるとじーっとそこから動かず、終わると興奮して拙い言葉で一生懸命感想を話してくれる。  そんなわけだから、知育もかねて日曜日の午前中は必ず三人で息子のアニメを一緒に見る時間を設けているのだった。お菓子の姿をしたヒーローが、空を飛びながら悪者をやっつける子供向けのアニメである。小さな子にも分かりやすい内容でありながら、大人が見ても感心するほど深い話だと有名だった。俺が産まれる前からやっている超ご長寿番組である。そんな古い絵本を原作にしたアニメが、今の世代の子供達にまで親しまれ愛されるというのは凄い話だなと思う。 「ぱんち、ぱーんち!」  アニメは、まさに主人公が大魔王に向かって必殺技を繰り出すところで終わっていた。子供向けアニメなので、悪役は死んだりしない。空高く吹っ飛ばされた次週には、何事もなく復活してまた悪戯を繰り返す。そのたびに、主人公は“友達”だと信じている大魔王を相手に愛のパンチをお見舞いするというわけだ。  ぱんち、ぱんち!と言いながら盛り上がっている息子を横目に俺は思う。現実は、そんな簡単にはいかないよな、と。  この世界は、一度罪を犯した人間をそう簡単には許さない。本人がいくら反省しても、もう二度としませんと約束しても、世間はいつまでもその人間を“犯罪者”として扱い爪弾きにするのだ。例え、その人間に“罪を犯すしかなかった”理由があったとしても、関係なく。  ましてや殺人なんて罪は――刑務所から出ても、一生許されるような代物ではない。その社会的制裁は、罪を償った後でさえ一生ついてまわるものなのだ。
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