137人が本棚に入れています
本棚に追加
「片山さんはあいつの目的を知っていますか?」
「俺の口から話すことはできない」
「どうしてですか?」
「それを知ってしまったら、君が君でなくなってしまうからだ」
片山は曖昧にはぐらかす。孝司は片山の手を取り、言った。
「俺を逃してください」
「それはできない」
「あいつに脅されてるんですか?」
片山は何も答えない。その代わりに天井を指さした。
「この部屋とバスルームには監視カメラが設置してある。だから下手な真似はできない」
「……そんな」
「仁科は君が思っている以上に狂ってる。しばらくは大人しくしてくれ。そして俺は仁科がいないときの監視役だ。ここに来れる頻度は少ない。でも――」
片山は不自然に見えないように孝司の肩に手を置く。
「――いつか俺が逃してやる」
孝司は小さく息を呑む。片山はいたずらが成功したように笑った。
「さてと、足の怪我を見せてくれ。それから新品の服をいくつか買ってきたから、今のうちに着替えるといいさ」
「本当ですか!」
「ああ。早く足を出して」
片山は持ってきた手荷物から、白い救急箱を取り出した。
「それとも先に汗を流すかい? 多少傷が染みるだろうが、そのほうが清潔だ」
「あ、でも……」
孝司が足枷に視線をやると、片山は、ああと気づき、ポケットから鍵を取り出して足枷を外した。
「いいんですか?」
孝司は半信半疑な気持ちで聞いた。
「君は逃げないだろう?」
そう言うと片山はバスルームへと続く扉を開ける。
「久しぶりに湯船に浸かりな。今日はゆっくり休めばいい」
「ありがとうございます、片山さん!」
孝司は礼を言うと、すぐさま浴槽に湯を張り三日ぶりの入浴を楽しんだ。足首が湯に染みたが、後で片山が手当てをしてくれるらしい。
仁科がいないとわかっただけでも嬉しいのに、片山という大きな存在が孝司の心を回復させた。
入浴後、片山は孝司の足首を消毒してガーゼをあて、さらに上から包帯を巻いてくれた。
「それ、また着けるんですか?」
孝司が眉をひそめる。また縛られたくない。
孝司の感情を読み取ったのか、片山は穏やかに笑った。
「傷にさわるだろうから、俺がいる間は必要ないだろう」
片山の気遣いに、孝司は心から感謝した。
最初のコメントを投稿しよう!