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初めてその青年を見た瞬間、衝撃が走った。
慣れないオフィスで照れくさそうに自己紹介をする青年は、かつて私が憎み、そして愛した「彼」によく似ていたのだ。長瀬と名乗った青年は、当時の「彼」よりもあどけなく、幼い印象を受けた。
差し出した右手を青年が握り返してくれたとき、私の心は満たされた。
ああ、ようやく「彼」が戻ってきたのだと。
だが青年はこの邂逅以降、私の前に姿を現さなかった。私の心にぽっかりと空洞ができてしまったかのようだ。一度は満たされたはずなのに、あの充実感はどこにいってしまったのだろう。
好きでもない会社に入り、毎日同じことの繰り返しで淡々とした日常は、よりいっそうつまらないものになってしまった。私は存在意義を失いかけていた。
青年に再会したのは、それから一年後のことだった。しかし青年の容姿はあまりにも変貌していた。黒く短かった髪は明るい茶髪になっていて、いかにもイマドキの若者といった彼の風貌に、私は激しい怒りを覚えた。
なぜ、君は「彼」じゃない。
そのとき、私の脳裏にかつて同級生に語った内容がよみがえった。
――先生と呼ばれ、皆に慕われる、立派な教師になりたい。
そうだ。私は教師ではないか。先生と呼ばれる者ならば、道を踏み外した生徒を正しく指導する義務がある。
早く青年を教育しないと、誤った道に進んでしまうだろう。
早くしなければ。
あの青年は私の生徒なのだから。
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