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◇
長瀬孝司の目覚めは最悪だった。ひどい頭痛に眉を寄せる。
身体を起こそうと試みたが、目蓋を持ち上げることでさえ億劫だと感じてしまう。
自分はいつの間に眠ってしまったのだろう。孝司には昨晩の記憶が無かった。
呑み過ぎた日でさえ記憶を無くしたことはないのに。酔っぱらってどこかでぶつけたのだろうか。右足首にかすかな違和感を覚える。
「うう……ん」
何かがまとわりついている。孝司は意を決して身体を起こし、目蓋を開けた。そこには思いがけない光景が広がっていた。
違和感の正体は重々しい足枷だった。冷たい金属の枷が右足首にはめられ、鎖が伸びている。鎖の先を辿ると寝かされていたパイプベッドの足元に何重にも巻きつけられ、さらに南京錠までかかっていた。
鎖自体はそうとうの長さがありそうだが、今の孝司にはまったく意味をなさない。鎖を解く以前に足枷を外さないことには、この悪夢から抜け出すことはできないからだ。
「どうなってるんだ……?」
孝司は改めて周囲を見渡す。寝かされていた部屋にはベッドの他に机と椅子がひとつずつと、扉が二か所あった。
窓らしきものはすべて塞がれていたが、天井に設置されている裸電球の灯りで部屋全体を見渡すことができた。
広さはそこそこあるが、外へ通じる扉や窓が閉ざされ、何よりも犬のように鎖で繋がれているという状況が、孝司をより混乱させた。
ここにいてはいけない。孝司は足枷を外そうとがむしゃらに手足を動かしたが、足首を痛めるだけでまったく外れる気配はない。
「くそっ!」
苛立ちに任せて鎖をベッドに叩きつける。金属同士がぶつかり合う甲高い音は、孝司の感情をさらに荒立たせた。
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