『そんなのじゃない』で検索

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まっすぐに見つめてくる瞳から、逃げられなかった。 「須崎(すざき)が速く、強いのは、俺がいちばん知っている」 からかいでも、同情でもなかった。 「たとえ共に走ることがなくても、それは変わらない」 男女が違うのだから練習でも一緒に走らないだろう、とは茶化さなかった。 「だから俺が一番になる時、その景色を一緒に見て欲しい」 俺を自転車だと思ってくれて構わない、と続けた。4年を数えようとする過去の話だが、一言一句思い出せる。 「ありがとう、勇一」 夏の日の、我が家のリビング。コーラより麦茶、ケーキよりフルーツ。自分はそのままでいいのだと、許された気がした。 どこかで盗み聞きしていた弟は「プロポーズみたいだった」とはしゃいだが、あいつの言葉に文字通り以上の意味はないとわかっていた。だから、素直に頷いた。だから、2人は県内強豪の私立に進学し、懲りずに自転車の側にいる。
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