2人が本棚に入れています
本棚に追加
まっすぐに見つめてくる瞳から、逃げられなかった。
「須崎が速く、強いのは、俺がいちばん知っている」
からかいでも、同情でもなかった。
「たとえ共に走ることがなくても、それは変わらない」
男女が違うのだから練習でも一緒に走らないだろう、とは茶化さなかった。
「だから俺が一番になる時、その景色を一緒に見て欲しい」
俺を自転車だと思ってくれて構わない、と続けた。4年を数えようとする過去の話だが、一言一句思い出せる。
「ありがとう、勇一」
夏の日の、我が家のリビング。コーラより麦茶、ケーキよりフルーツ。自分はそのままでいいのだと、許された気がした。
どこかで盗み聞きしていた弟は「プロポーズみたいだった」とはしゃいだが、あいつの言葉に文字通り以上の意味はないとわかっていた。だから、素直に頷いた。だから、2人は県内強豪の私立に進学し、懲りずに自転車の側にいる。
最初のコメントを投稿しよう!