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インターハイの自転車競技・ロードレースは、3日間のトラックステージと最終日のロードステージで構成されている。
今年は地元開催というのもあって、見慣れた制服が会場に詰めかけていた。ルールは、タイムがと言い合っている。
その集団から距離を取って、後方で熱気を味わう。おしゃれ着のブラウスと普段履きのスニーカーがちぐはぐで、イヤリングは結局ポシェットに入れた。
何度学校名を叫んだか。自分の声に反応したわけでもないのにタイミングよく選手の手が上がるのを見て、心が跳ねる。
「順当に西川だな」
「地元だもんな。あの1年もタイム的には表彰台圏内だろ」
「山崎くん、可愛かったね」
熱に浮かされたように話す観客に、心の中で「そうでしょう」と頷く。
気持ちいいでしょう。火照った体で風を切るのはもっと。
レースの余韻を楽しんでから、会場を後にする。夏の夕暮れが、ノースリーブの肌を心地よく冷やす。伸びをすると、全身が生まれ変わるようだ。
「須崎」
「...なんだ、勇一か。チームは?」
ジャージを着た人とすれ違ったが、様子からしてサポート要員だった。レース直後の選手が出てくるには、まだ早い。
「島田に任せてある。『須崎らしき女性を見たから声を掛けてこい』と」
なるほど、よくできた副主将でいらっしゃる。
「そう。これ、ぬるいけどよかったらメンバーで分けて」
ダメもとでジュースを買っていて正解だった。
「ああ」
ここまで読まれていた気がするのが癪だが。
「明日も来れるのか」
珍しいことを聞かれた。レースは遠征が多いので、そんな話をしたことがない。
「...補習があるから、ゴールには間に合わせる」
実を言うと、バスの都合で表彰式に間に合うかもわからない。補習のないこの日だけ見られれば満足だった。
「そうか」
滅多に緩むことのない目尻と口角が綻ぶものだから、そのまま頷くしかなかった。
「気をつけて帰れよ」
ぶわっと汗のにおいが嗅覚をくすぐる。武骨な指が、耳のカーブをなぞった。落ちた髪を掛けられる。一瞬で、全身が熱くなるのがわかった。
「また明日」
返事はできただろうか。ぼうっとする頭で、懸命に降りるバス停を唱える。いつになく活発な心臓は、「こんなのおかしい」と騒ぐ。
だって私達は
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