『そんなのじゃない』で検索

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最後のインターハイ、結果は惨敗だった。優勝者は前日4位につけた他校の2年生。うちの学校では5位の山崎が最高位で、完走者は彼と副将の島田のみだった。後日のネットニュースでは、「酷暑と大規模な落車で例年以上の棄権者を出したタフなレース」と評されていた。 「西川のやつ、惜しかったな。あのままいけば優勝だろ」 「集団だったからわからないが、あれは危険行為じゃないか」 「マジで」 4日目を首位で迎えた西川勇一は、レース中盤の落車により棄権。同じ場所で数人が棄権しているから、巻き込まれたのか避けきれなかったのか。ゴール地点で開いたスマホの速報では、これが限界だった。「落車」という文字に体が凍える。右脚が疼くのも、気のせいじゃない。 とにかく、この山を下りないと。人気のない場所を選んで進むと、見覚えのあるジャージを見つけた。 「須崎さん」 どこに行くんですか、とくぐもった声で尋ねてくる。しゃがみ込んで顔を伏せているので、表情はわからない。 「どうしようか」 正直、迷っていた。 「責めないんですか、俺のこと」 「責めて欲しい?」 スタートにも着けない私には、そんな権利などないのに? 「俺、西川さんと同じ集団にいたから知ってるんです。前方で落車があったって知らされて集団が細くなった時」 「やめて!」 聞きたくなかった。まばらにいた人が、振り返るのがわかる。 ローファーの爪先に落ちたのは、汗か涙か。指先が痺れる。歯が鳴るのを、懸命に堪える。 「すみません」 セーラー服から出た腕を撫でると、鳥肌が立っている。 「聞いた感じ、体の方は大丈夫そうですけど」 時間を掛ければ、自転車に乗れるという意味だ。 「でも、西川さんには会わないであげてください。多分俺なら、耐えられないから」 数年前、両親は、怪我をした私を見ていられないと泣いた。こんな心地だったんだろうか。 「特別な女の子に情けないとこ見られるの」 「...お前そんなキャラだっけ?」 妙に説得力があるのは気になったが、おかげで力は抜けた。今、一番伝えるべきことは 「わかったよ、山崎。勇一と、3年生達と一緒に走ってくれてありがとう」 足下にコンビニの袋を下ろして、背を向けた。漏れ聞こえる嗚咽は無視する。慰めるのは、苦手だから。
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