腐った林檎が、います

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「おい山本。そんなところにいないで早く【俺のアレ】を入れてやれよ」 「はい…」 俺は過去から現在に一気に引き戻される。俺は泣いている【イケニエくん】と、泣かせている林檎を見つめている。 いつから、大きな感情を失ったのだろう。いつからこんなに冷静に、スムーズに動けるようになったのだろう。 「山本」 【イケニエくん】の顔が歪む。唇がわなないて、俺の名前を呼ぶ。 「サトル…、頼む。お前はそんな人間じゃあ、ないはずだ。いや、俺のことはもういい。だが、お前だけでも…。今からでも大丈夫だ、サトル。早くこんな奴から離れろ、お前はまだ若いんだ…」 「はははは、俺のことを呼んだか?残念だな、俺はお前と同級生だぜ」 「違う、違うんだ、お前じゃない、お前じゃない。俺が呼んだのは、」 山本悟だ。やまもとさとるだ。俺の恩師だった男が俺を見て、サトル、と言ったのに俺は全く動じなかった。 むしろ苛立ちさえ覚えた。 今からでもやり直せる、だって? 俺は林檎の性器を傷つけた。 その時の恐怖からなのか、林檎は射精が出来ても勃起ができなくなった。 林檎が入院中、俺はかろうじて殺されなかったが、林檎はある意味で俺を殺した。 「いいか、俺はお前だ。お前は俺だ。俺の代わりをさせてやる。もしも誰かが俺を殺そうとしたらお前を盾にしてやる。俺はお前だ、お前は俺だ」 血走った目で林檎は何度も何度も繰り返した。 俺は、お前だ。お前は、俺だ。一生逃がさねえぞ、逃がさねえからな。 俺達は似ていた。背格好も体格も。後は若さと顔だけだった。 「俺はやり直せないよ、先生。ほら、見てみなよ」 俺はゆっくりと【イケニエくん】に歩み寄る。すると【イケニエくん】はいつも見慣れているのに、後ずさる。 林檎が歯を剥き出しにして笑う。 俺も歯を剥き出しにして笑う。 「ほら、この顔見てみろよ。俺は、もう戻れないんだよ、先生」 俺は林檎の顔に整形させられた。だが、若さはどうにもならない。 薬でなんとかすることもできるが、林檎はそうはさせなかった。 だから、俺達はよく似ている親子のようだった。
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