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再会は突然に
「なんかもぉつかれちゃったな……」
ピコは公園のベンチで足をブラブラさせながら呟いた。見た目は16歳、中身は5歳。その様子は傍からみれば少し違和感のある風景だ。が、疲れ果てたピコは街行く同年代の少女らと同じように振る舞う余裕がない。
ここに来るまでに2度も怖い目にあった。
♦ ♦ ♦ ♦
賑やかな街をキョロキョロしながら歩いていたら、眼鏡をかけたおばさんが突然怖い顔してワタシに話しかけてきた。
「ちょっとあなた、いいかしら?こんな場所でブラブラ歩いて何をしているの?学校は?」
「え?」
「ちょっとこっちにいらっしゃい話は後で聞きますから」
そういうとワタシの腕をつかんでぐいぐい引っ張りどこかへ連れてゆこうとする。
色々聞かれても詳しい話なんかできないし、どこかに連れてゆかれてとうさまに会えなくなるのだけはイヤ。逃げなくちゃ!
渾身の力を込めてその手を振り払い全力で駆けだした。しばらく走ってやっとの思いで街の裏通りに入ったけど、これからどうしよう。
船に戻った方がいいのかな。思案に暮れているうちにどんどん寂しい気持ちになってくる。
どうしてワタシは知らない星で独りぼっちなんだろう。
「パパぁ」
半泣きのワタシの背後から、パパより年上のおじさんがワタシに話しかけてくる。
「君、パパを探してるのかい?」
フーフーと鼻息荒く近づいてくる。
「おじさんが、パパになってあげようか?いくらほしいの?」
こ、怖い。おじさんがパパになれるわけないっ!ワタシは返事をすることなくクルリと背を向けまた走り出した。
どれくらい走ったのか、よく分からないまま公園にたどり着く。
完全にエネルギー切れだ。ペタリとベンチに腰を掛ける。慣れない星、よく分からない人そして静かな受信機……。
♦ ♦ ♦ ♦
一方、ギールガーシュは自分を追いかける子ども達をやっとの思いで振り切って一人宇宙船を目指していた。
動物に擬態するというのは身軽な一方不便なものだ。すっかり疲れて日なたで丸くなって休みたいと思うが、ピコが寂しがっていると思うとそんな暇はない。
再び歩き始めようとした瞬間、急にギールガーシュの腹部がキリキリと痛み出した。
♢ ♢ ♢ ♢
「ま、まずい……」
俺的緊急事態!さっきもらって食べたアレ、アレが絶対良くなかった。知らない人からもらったものを簡単に口にしてしまった自分を呪ってしまう。
俺が宇宙船につくのが先か、腹の限界が訪れるのが先か。
いや待てよ。腹の限界が来て、トイレを済ませてしまったら俺が朝飲んだ発信機は一体どうなるのだ?
まさか一緒に体外へ排出されたりしないよな?猫の生態までは把握できていないので腹の限界とそうなってしまった場合の焦りが一気に襲ってくる。
ひとまず、どうにか宇宙船へ……。
刻一刻とせまる限界を感じながらひたすら宇宙船を目指して歩く。歩く。ある……くぅーっ!もう限界だっ!
さすがに道端ではヤバいと思い近くの公園に飛び込んだ。
♢ ♢ ♢ ♢
空が水色からオレンジ色に変わってきた頃、まだピコはベンチに座っていた。その視線は手首に巻かれた腕の受信機の画面に注がれている。
発信器のありかを示す小さな赤いランプは画面上のあちらこちらを行ったり来たりしながらピコのいる地点に近づいてきているのだ。
とうさまだ……!こうしながらも近づいてくるのだから自分は動かない方がいい。迷子の鉄則、パパが昔言ってたもん。
そうして赤いランプは近づくと、すぐ近くで止まったまま動かなくなってしまった。なのにそれらしい人の姿は全く見つけられない。
こうなったらワタシが呼ぶしかない!
我慢しきれずピコは立ち上がると声を限りに叫んだ
「パパーーっ!」
ピコ―っ!と呼ばれる代わりに聞こえたのは
「にゃー―っ!」という動物の鳴き声。
あの少女がピコ!
それは人の姿ではなかったけれど。間違いない、あれが……パパ!
ピコとギールガーシュはお互いに駆け寄った。ピコは猫になったギールガーシュを優しく抱き上げた。
「パパ、会いたかった!」
まさかピコに抱っこされる日が来るとは!
いつもと逆だな。ギールガーシュは頭の片隅で考える。せっかくだから甘えておくかと、ピコに身体をすり寄せた。
「ねぇママ、あのおねえちゃん、ネコのことパパってよんでるよ」
近くで遊んでいた子どもが無邪気に母親話しかける。
「変わった名前のネコちゃんね」
母親も息子の指さす方を見てにっこり微笑むのだった。
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