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非常事態発生
「一部外壁マタハ内圧調整パイプノ損傷デ連鎖的ニ傷ヤヒビガ発生シマシタ。」
「とうさま……」
ピコはぎゅっとギールガーシュのユニフォームの袖を握りしめる。
「コノ損傷ニ対シ船ガ重スギテ正常運航耐エラレマセン。チキュ着陸前ノ摩擦及ビ重力デ本船ハ追突、マタハ制御不能ニナリマス」
「修理は?」
「残念ナガラ可能確率5%デス」
ピコのためなら張れる命は張ってやる!ギールガーシュは即座に決心した。
「ピコ・ウエスティン、君はこの船を操縦できるか?」
「操縦研修受講済みです」
「よし、ピコ、よく聞くんだ、私は脱出用小型ポットで、目的地ニポンを目指す」
「……パパ?」
小型の脱出ポットは母船と違い、装備も作りも軽微なため、何かあった時の回避策がとりにくい。その上マニュアル運転で、無事にニポンに到着できるかどうかの難しさは母船の比ではない。
「ピコ、パパは運転のA級ライセンスを持ってるから心配ないよ。それに脱出ポット1台とパパがこの船から離れればおそらくこの船も無事なはずだ。な、203号」
「ハイ、十分デス」
「でも、パパ!」
「ピコ・ウエスティン、我々は任務を3日で完了し、無事帰還する必要がある」
「はい、ギールガーシュ主査」
「……なぁに、ニポンへ着くことぐらい簡単さ。さぁ任務のための準備を続けようじゃないか」
ギールガーシュは203号を完全自動運転モードに切り替えると着陸後ピコが困らないよう準備を整えてやるために席を離れた。
父親が発った後は自分ひとりで何もかもをこなさなければならない。やり遂げようピコは口をむすんで前を見つめている。
そうこうしているうちにピピッと203号の呼び出しアラームが鳴る。
ギールガーシュがこの船を発つ時間だ。
ギールガーシュは娘の目を見つめて言った。
「ピコ、一人でお泊りもしたことない君を残して出発するのは心残りだ。脱出ポットも目的地は同じだけど、物事には誤差がある。パパの計算だと半径2キロくらいだ。だからこの発信器と受信機を使ってお互いを探すことにしよう。受信機の方の使い方、わかるね?」
ピコはコクリ、と頷く。
「よし、ではピコ・ウエスティン、私は先に出るぞ! 」
「はい、ギールガーシュ主査、ご無事の到着を」
「203号。君はこちらの要求以上はしないようプログラムされているが、あとは君に任せたぞ」
そういうとギールガーシュは脱出ポットに向かった。
去ってゆく父親の背中を見ていると涙が出てくる。そんな自分に泣いちゃ、ダメだ今はその時じゃないと言い聞かせ、
「ギールガーシュ主査、メインコックピットです。ハッチオープンの準備できました、いつでも出発OKです」
と声をかける。
「OK、お嬢ちゃん、こっちも準備完了だ。オープンを頼む」
「ラジャ、203号、ハッチオープン」
ピコのオーダーでゆっくりハッチは開く。
「行ってらっしゃい!」
精一杯明るい声での見送り。
脱出ポットは宇宙へ吐き出されていくとサイドランプをチカチカと2回点滅させ真っすぐ、ちきゅへと向かっていった。
気が付けばもう目視でも確認できるほど目的の星は近い。
こちらも着陸準備に入らなければ。
ピコは着陸へと集中力を傾け始めた。
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