こんなはずじゃなかった -Side ピコ-

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こんなはずじゃなかった -Side ピコ-

 ニポンへの到着は夜だった。ワタシは真っ暗いところが好きじゃない。  のぞき窓からは他所(よそ)のおうちの灯りばかりが見えていてワタシは急に寂しくなる。 「パパぁ……」  この言葉は更なる寂しさの呼び水だ。  ワタシはいつの間にか眠りに落ちる。  翌朝、窓から光が差し込むとガバッと身体を起こし周りを見回す。  シーンとした船室は何の音も気配もない。  そうだ。パパはいない……。  しょんぼりしているワタシに203号から声がかかる。 「脱出ポットモ無事二到着シタヨウデス」 「じゅんびをしてとうさまをさがしにゆかなくちゃ」  ベッドから勢いよく走り出し、食糧棚から携帯食を取り出すと封を切り、パクリと半分ほど口に入れる。  とうさまがその場にいたら目が飛び出るほど驚いただろうな。 今までは携帯食はモソモソするから嫌いだし、ママのご飯じゃないから食べたくないと、キリがないほど文句を言ってきたのだから。 モグモグと口を動かしながらとうさまのことを考える。任務も気にはなるけど、大好きなとうさまに最速で会いたい。きっと、とうさまだってそう思いながらワタシを探してくれるはずだ。  外の星で独りぼっちははじめてで寂しいけど今だけガマン。  食事を終えると荷物の中から擬態薬を取り出す。小さな茶色い瓶に半分ほど入ったその液体は飲んでから初めて見た生物に自分の姿を変えることができる。  ワタシの住む星とここは条件的にかなり似ているけど、それでも生き物の姿はやっぱり多少の違いがある。外を歩くために今一番必要なことはこの星で生きる者たちに姿形を合わせること。そのための薬だ。  と、わかっているけど小瓶を握りしめた手はなかなか口元へは運べない。    だって…… 「も、ものすごく苦いお薬だったらどうしよう……」 「パパサンピコサンヲキット探シテマスヨ」  その言葉は間違いなくワタシの背中をグンっと押した。握った瓶の蓋を開け、その中身を飲み干す。 「にが――っ!!」  顔をしかめながらも翻訳イヤホンとマイクを装備して注意深くのぞき窓から外を眺める。  いざ擬態、ワタシが最初に見たのは……。 「おはよー!カオリ!」 「おはよう!古典のテスト勉強した?」 「してなーい!ずっと漫画読んでた!朝ご飯食べながらヤマだけかけてノート見なおしただけー」 「なにヨユーじゃん!」  2人が話していることがわかるということは翻訳イヤホンの調子も良好みたいだ。  ワタシよりもお姉さん!しかも美人だ!すると突然、ふわわっと身体が宙に浮くような不思議な感覚がおこる。ディスプレイの画面に映るワタシの姿はさっきみたお姉さんそのものだ。視線の高さもまえよりも全然高いところにある。  着ている宇宙服が伸縮性に富んでいる生地だからボディラインが変わったこともはっきりわかる。 見た目は従妹のミリアちゃんと同じくらいかな?ならばワタシは今、16歳!  早く大きくなりたいって夢が叶ったんだ!わーい! 擬態、よし。 翻訳機、よし。  ワタシはクローゼットに向かい、今回の調査のために用意した数々の着衣の中から、とびきり可愛いものを選んで身に着ける。 横の鏡で確認する自分の姿はなかなかいい感じだ。 似合ってるぅー!  ウキウキしながら受信機を手首に巻き付けた。  受信機はまだ反応してないけど、きっととうさまが近くに来たらすぐに反応してくれるはず。  これで準備は完了だ。 「ワタシとうさまを探しに行ってくる!」 「デハ出入口ノドアをオープンシマス」  程なくして、ドアが静かに開くと四角く切り取られた朝の眩しい光の中にワタシは1歩踏み出した。  
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