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こんなはずじゃなかった -Side ギールガーシュ-
「あ、いた、いた!見つけた!」
しまった、また見つかった!!
俺は全速力で駆けだした。
身の危険をあからさまに感じる。もし捕まってしまえば拉致監禁か大怪我だ。
まだピコとも再会できていないというのに、捕まってたまるか!
慌てて通りがかった家の植え込みの死角に飛び込み身をひそめる。
い、一体どうしてこうなった……。
はぁはぁと荒い呼吸を続けながらニポンに到着してからの自分を思い返す。
船はほぼ予定通りの場所に着陸できた。首尾は上々。きっとピコの乗った宇宙船も予定地点に着陸できているだろう。母船が到着した辺りまで行けば間違いなくピコの受信機は俺の発信器に反応するはずだ。
荷物から擬態薬を取り出しグッとあおる。
それを飲み干した瞬間、ふと、ピコはこの薬をきちんと飲めただろうかと考えた。最近は大人びた言い方をすることもあるが味覚はまだまだ子どもだ。薬の苦さにきっと顔をしかめただろう。そんなピコを想いふっと笑いが漏れる。
そんな思いに気を取られうっかり脱出ポットの扉を開けてしまった。
開けた瞬間、ある者と目がばっちり合う。
しまった!と思う時にはもう遅く、身体はみるみるうちに小さくなって5分後には……。
「にゃあ~ 」
鳴きながら毛に包まれた身体をペロペロと舐めていたのだった。
ニポンでいう猫という生き物になってしまったらしい。
猫、という生き物はここニポンでは特に愛されている動物の一種だ。
有名な小説家が「吾輩は猫である」などという本を書いたそうだから相当なじみがあるのだろう。
……とんだ誤算だ。子どもの姿に擬態して周囲を油断させつつ調査を進めるつもりだったのに!
しかもこの姿では発信器を身に着けることができない。これなしに俺とピコがお互いを認識するなんて200パーセント無理。絶対ムリ。だって話せる言葉は『にゃー』だけなのだ。
俺はじっと発信器を見つめる。選択の余地はない。
意を決してその発信器を口にくわえるとそのままゴクリと飲み込む。飲み込んでしまえば大したことはなかった。
猫姿、快適!
俺は何分もしないうちにそう感じ始めていた。身体はいつもより軽いし。道行く人は好意的だ。
特に女性はかならず笑顔を向けてくれる。機嫌よく尻尾のひとつでも振ってやると食べ物まで与えてくれる人さえいるのだ!
あ、俺は決して調子に乗っているのではない、これは任務だ。この体験を通じこの星の人々について深く知り報告書にしたためるのだ。
かなりご機嫌に歩いていると、ふと後ろから子どもの声が聞こえてきた。
「あ!ネコだ!」
そうですよー、猫ちゃんですよー。
俺は愛想をふりまく。
まだ10代前半の同じカバンを背中に背負った男の子が数人で俺を取り囲む。
そして、あれ?と思った瞬間に首をつかまれ俺はひょいと持ち上げられ宙ぶらりんだ。
「にゃにゃにゃにゃにゃっ!!」
何をするんだ、放してくれ!!
「なーこいつ学校につれてっちゃおうぜー」
「やだよ、おこられちゃうよー」
そうそう、やめなよー!心の中で、同意する。
「だってネコってすごいんだぜ。高い所からでもかるーく着地できるんだ。だからさー教室の窓からこいつ投げてみたいじゃん?」
え?投げちゃうの?ちょっと待って!
連れてゆかれるの断固阻止。俺は全力で暴れ、手が離れた隙に全速力で走り始めたのだった。
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